神奈川訓練センターにおじゃまして盲導犬ユーザーさんにお話を伺いました!

森川さん盲導犬サニエルのスリーショット

公益財団法人日本盲導犬協会神奈川訓練センターとは

日本盲導犬協会は盲導犬の育成や普及啓発などに取り組んでいる団体。神奈川訓練センターは日本最大級の盲導犬育成施設で、協会全体で年間50頭の盲導犬の安定的な供給をめざし、盲導犬訓練士が犬を育成している。今回、盲導犬ユーザーであり協会の職員でもある森川さんと普及推進部の横江さんに、盲導犬との生活や盲導犬ユーザーが社会に求めること、駅ホーム転落事故時の協会の対応などについて伺ったよ。

お話を伺った森川さんの写真

盲導犬と一緒に、スムーズに歩ける喜び

盲導犬ユーザーでもある協会職員の森川さん

盲導犬ユーザーでもある協会職員の森川さん

約2年前より日本盲導犬協会に職員として籍を置き、全国各地で盲導犬の歩行デモンストレーションや講演などを行っている森川さん。盲導犬ユーザーになって約7年になる。

「私は生まれつきの視覚障がいではなく中途で障がいを負ったので、目が見えていた頃から歩くのが早かったんです。白杖を使っていた時もせかせかと動き回るもんですから、白杖で触れた瞬間にはもう眼前に電柱が迫っていることがしょっちゅう(笑)。盲導犬ユーザーの知り合いから『犬と歩くといいよー』と薦められたのもあり、じゃあやってみようかな、と思ったのが盲導犬を選択したきっかけです(森川さん)」

「物にぶつからずにスタスタ歩けるというのは、本当にうれしいこと! 白杖を使っていると、止まっている自転車のタイヤの中やアスファルトの凸凹、排水路の溝などに杖がひっかかってしまうんですが、盲導犬はそれがありません。盲導犬が知らないうちに避けているので、ストレスなく歩けます。やっぱり盲導犬ってすごいなーって日々思いますね(森川さん)」

また、普段の生活だけでなく非常時にも盲導犬の存在は大きい。

「2年くらい前に隣家からボヤが出たことがあって、盲導犬と一緒に外に避難したんですが、大きな体格の犬がすぐ横にいてくれたのが心強かったです。盲導犬は非常時に何か特別な対応をするという訓練をしているわけではないのですが、一緒にいてくれる安心感がとてもありました」と森川さん。

盲導犬はなくてはならない大事な存在

森川さんと7年一緒に暮らす盲導犬の写真

森川さんと7年一緒に暮らす盲導犬

盲導犬ユーザーにとって盲導犬は、毎日一緒にいて歩行をサポートしてくれる存在。それゆえ、盲導犬を「家族」「パートナー」だというユーザーも多いが、森川さんの考えは少し違う。

「もちろん大事だしすごくかわいいし、いないと困る存在だというのは間違いないこと。私は盲導犬に助けてもらっている、お世話になっているという気持ちが強いですね。だから、パートナーというのは、おこがましく感じるくらい(笑)。こちらもエサや排せつの世話をしていますが、世話をしているという感覚はまったくないんです(森川さん)」

盲導犬には10歳前後で盲導犬ユーザーと別れて引退するという決まりがある。引退後の盲導犬はボランティア家庭で余生を送り、盲導犬ユーザーには新たな盲導犬が貸与される。

「いつかはお別れすることもあって、盲導犬とはある程度、距離を持って接する必要があると肝に銘じている部分があります。実はこの子も今年10歳になるので、年内中にお別れすることになります。なので、少し距離を持った気持ちでいたほうがいいのかな、と。そうしないとさみしくて大変なことになりますから」と森川さん。

変わりつつある社会の理解と受け入れ

イベントで子どもと触れ合う盲導犬

イベントで子どもと触れ合う盲導犬

盲導犬との生活はよい面がある一方で、ストレスに感じることもある。

「ストレスを感じるのは、周囲の反応、世間の反応ですね。例えば、電車に乗っていると『あっ盲導犬だ!』とか『触っちゃダメなのよね』などと言われる。それが毎日毎日繰り返されるので、地味にストレスなんです。口に出して言わなくていいから、そっとしておいてほしいって思います。外国の方は理解が進んでいるのか、盲導犬がいても見ないふりというか自然に接してくれるので、日本もそうなるといいなと思いますね(森川さん)」

ただ盲導犬ユーザーとして長年生活してきて、盲導犬に対する社会の理解や受け入れが変わってきたと感じることもある。

「初めのうちは『名前はなに?』『トイレはどこでするの?』とかよく聞かれましたが、最近は減ってきました。正直まだまだ入店拒否はありますし、法律を知っているけれど入店拒否するお店もあります。ですが、何も聞かずに入れてくれるお店も増えてきており、暮らしやすさが増してきたと肌で感じています(森川さん)」

社会の受け入れが変わってきている理由として、子どもへの教育があるのではないかと森川さんは考えている。

「以前小学2~3年生の女の子が5歳くらいの弟に『あのワンちゃんはお仕事しているから触っちゃダメ!』って教えていて、それでも触ろうとする弟を羽交い絞めにして止めてくれたんです(笑)。そのお姉ちゃんに聞いたら、『学校で習った』って言っていて。お子さんがご家庭の中で盲導犬の理解を広めているんじゃないかなと思うんです。小さいうちに学んだことって大きくなってもちゃんと覚えていて行動に影響してくるので、教育は大事だと思いますね」と森川さん。

盲導犬との生活をより快適にするために、社会に求めること

盲導犬とスキンシップをとる森川さん

盲導犬とスキンシップをとる森川さん

「盲導犬に対してはあたたかい無視、やさしい無視をしてほしいですね。盲導犬はまだまだ芸能人レベル。テレビで見た盲導犬がそこにいると騒ぎたくなってしまう気持ちもわからなくはないんですが、盲導犬ユーザーとしては静かに暮らしたいです。毎日盲導犬のことで話しかけられたり騒がれたりするのは、地味にストレス・・・。盲導犬には無関心になってもらいたいです(森川さん)」

一方で、視覚障がい者には興味を持ってほしいと森川さんは言う。

「意外と知られていませんが、視覚障がい者の中でまったく見えないというのは全体の1~3割程度で残りは何らかの視力は残っているんです。私自身も強い光は見えますし、スマホの画面を見ることができる人もいます。でも、まったく見えないと誤解されている方から、『嘘をついている。本当は見えているんじゃないか』と言われてしまうことがある。それはすごく悲しいことです。視覚障がい者に対して一つひとつ正しい理解に変えていってもらえると、もっと暮らしやすくなると思います」

盲導犬ユーザーのホーム転落の危険性と対策

駅ホーム転落事故時の協会の対応について話す普及推進部の横江さん

駅ホーム転落事故時の協会の対応について話す普及推進部の横江さん

「私もつい1週間前、駅のホームですごく怖い思いをしました」と話すのは森川さん。

「左右に線路があり真ん中にホームがある場所で、自分はホーム側にいて線路側に盲導犬がいると思っていたんですが、実際は逆。自分が線路側に寄っていたんです。電車を下りる時に少し体の位置がずれてしまい、どうやら逆の方向に歩いてしまっていたようです。その時は何かおかしい、と気がついたので、白杖で周囲を確認したら私のすぐ横にホームの縁があることがわかりました。地下鉄は特に多くの人が行き交いますし、音が反響するので自分がどの位置にいるのかつかめなくなってしまいやすいんです(森川さん)」

1月に起きた地下鉄の駅ホーム転落事故では、日本盲導犬協会が一時的に犬を保護した。また、事故をきっかけにさまざまな再発防止の取り組みを行っている。

「全国に11の盲導犬育成団体がありますが、2016年8月の転落事故の際は、真っ先に私たちの団体に連絡が入りました。一報を受けてすぐに現場に行き犬を保護しました。その後、別団体に所属する盲導犬だということがわかったので、その団体にお返しいたしました」と横江さん。

「当協会の盲導犬ユーザー全員に対しては、事故のことをすぐにお知らせして改めて注意喚起し、不安な方には駅周辺のフォローアップをしました。ユーザーの反応はさまざまでした。ホームに落ちて盲導犬ユーザーが亡くなるということは今までなかったので、驚かれる方が多かったようです(横江さん)」

また、日本盲導犬協会では、駅員に対して盲導犬受け入れセミナーも活発に行っている。多くの鉄道会社が社員研修の一環として積極的に取り入れており、相互協力のもと再発防止に取り組んでいる。

また、周囲の人たちの気づかいや声かけが視覚障がい者や盲導犬ユーザーへの安全対策に有効だと横江さんは話す。

「盲導犬ユーザーも白杖使用者も、日常の中で周りの方の助けが必要な場面があります。ですから、盲導犬ユーザーや白杖使用者がきょろきょろしているなど困っているそぶりをしていたら、『何か手伝うことありますか?』と声をかけてみてください。日本盲導犬協会が掲げる言葉で、“あなたが変われば社会は変わる”というのがあります。声をかけることは勇気がいりますが、視覚障がい者の安全・安心につながりますので、視覚障がい者に気配りと声かけができる社会になっていったらと思います(横江さん)」