「自分なんてどうせ」ではなく、「自分は大丈夫」と思えるように。
──キッズドアの活動内容について教えてください。
キッズドアは、「すべての子どもが夢と希望を持てる社会」を実現するために、経済的に貧しいご家庭のお子さんを支援している認定NPO法人です。設立当初は学習支援という形で、高校受験を目指すお子さんを対象にした無料学習会からスタートしましたが、英語に特化した学習会やPCスキルを習得できる学習会など、時代のニーズ、お子さんのニーズに合わせて活動の幅を広げています。
以前、キッズドアでおこなった調査から、子どもの人生観を切り開いていくためには「経済的資本」「文化的資本」「社会関係資本」の3つが必要だということが分かりました。ですから、キッズドアはこの3つの要素を提供することをベースに様々な活動をしています。
経済的資本については、無料の学習会を通して提供していく形になります。文化的資本というのは、子どもたちがいろんな体験をしたり多様な価値観に触れたりすることで、生きていくために必要な能力である「非認知能力」を育むイメージです。ボランティアさんとのコミュニケーションを中心に、文化的資本を提供していきたいと思っています。社会関係資本は、自分を見守ってくれる大人がたくさんいて、信頼できる関係性があるということです。社会関係資本を提供するのも、キッズドアの学習会の重要な役割です。
──キッズドアに通う子どもたちは、どんな特徴がありますか?
キッズドアに通うお子さんは経済的に貧しく、なかなか将来のキャリアビジョンを描くことができません。シングルマザーのご家庭が多く、保護者の方は非正規雇用で働く方が大半です。そういった背景もあるため、「仕事って大変でしんどいもの」といったイメージを持っている子が多いと思います。
ですが、キッズドアの学習会に来て様々なボランティアさんと触れ合うことで、子どもたちは楽しく働いている大人がいることを知ります。このように、ボランティアさんとの触れ合いのなかで、子どもたちに「楽しい仕事があるんだ」「いろんな選択肢があるんだ」ということを知ってもらうのは、非常に重要なことです。キッズドアは単なる進学塾ではありませんので、いろんな話をしてあげることで、子どもたちの価値観に広がりを持たせてあげたいなと思っています。
「自分なんてどうせ・・・」というように自己肯定感が低いお子さんも多いので、ボランティアさんには、子どもたちをたくさん褒めてあげてくださいと伝えています。一人ひとりの子がそれぞれ「いいね」を持っていますので、そこをきちんと褒めてあげることで「自分は大丈夫なんだ」と思えるようになってほしいですね。
本を読み、音楽を聴く。子どもの成長にとって文化的資本はすごく大事。
──今日おこなわれている「みらい塾」について教えてください。
みらい塾は、経済的な事情で塾に通うことができない小学4年生から中学3年生までを対象とした学習会です。基本的に、生徒とボランティアが1対1で個別学習を進めていきます。高校受験を目指す学習会は中学生を対象にしているところがほとんどですが、みらい塾は小学生から受け入れています。長期にわたって子どもたちの学習を支援し、成長を見守っていけるのはみらい塾の一つの特徴です。
みらい塾は行政委託事業ではなく自主事業としておこなっていますので、地域などの制約もなく、いろんなエリアの子どもたちが通っています。基本的に2週間に1回、ここ(コーププラザ新中野)で開催しており、現時点で21人の生徒が登録しています。
──コロナ禍によって、みらい塾の運営などで変わった点はありますか?
緊急事態宣言下では当然、みらい塾は休止していました。学校も休校になっていたので、子どもたちは数ヶ月、ほったらかしにされており、孤独感を抱えやすい状況だったと思います。コロナで大変な時期でしたが、何とか子どもたちとつながりを持っておきたいと考えて始めたのがオンラインでの交流です。
始めは、オンラインで「おしゃべり会」をして近況を話したりするだけでしたが、その間に私たちも環境を整えて、去年の5月からは受験生を対象にオンライン学習会をスタートしています。Wi-Fi環境や端末がないご家庭には、キッズドアが無償貸与しました。
みらい塾は月2回の開催なので、1回休むと約1ヶ月、間が空いてしまいます。これは以前からの課題だったのですが、オンラインで学習会ができることが分かり、この課題を解決できる目処が立ちました。これはある意味、コロナの恩恵だったかもしれませんね。
──みらい塾は、個別学習以外にも様々なイベントがあると伺いました。
はい、毎年いろんなイベントをおこなっています。今年ももうすぐですが、年末にはクリスマス会があります。みらい塾のクリスマス会では、毎年子どもたちに本をプレゼントしているんです。「本を読むことで世界を広げてほしい」と、あるボランティアさんが寄付してくださっています。
みんなに同じ本をプレゼントするのではなく、2冊選んでもらっています。「読む本」と、図鑑などの「調べる本」の2冊です。基本的に好きな本を選んでもらっていますが、本選びの参考にしてもらうために、毎年ボランティアさんにおすすめの本をピックアップしてもらい、それをリストにして保護者の方にお送りしています。
私たちがおこなったアンケートでも、経済的に困窮しているご家庭は、家にほとんど本がないということが分かりました。本って、身近にあると何となくペラペラ開いて、いつの間にか知識が広がっていくようなものだと思います。特に、図鑑などは何度も読み込みたいものじゃないですか。もちろん図書館に行けば本を読めますが、いつも手元にあることで本に親しんでもらいたいと思い、クリスマス会でプレゼントしています。
以前のクリスマス会では、アマチュアのオーケストラに来ていただいて演奏会をしてもらったことがありました。子どもたちにとって素敵な体験になりましたので、今年もオーケストラに来ていただくことになっています。
本や図鑑を読むこともそうですし、生の音楽を聴くこともそうですが、やはり文化的資本はお子さんが成長していくうえですごく大事な要素になります。みらい塾は学習会ですが、勉強するだけでなく、人としていろんな面で豊かさを育んでもらえたらと思っています。
いろんな大人に出会い、世界が広がり、勉強する意欲が湧いてくる。
──みらい塾を運営していて、嬉しいのはどんなときですか?
子どもたちの変化や成長を見られたときはやはり嬉しいですね。以前、親に言われて無理やりみらい塾に来ていた小4の男の子がいたんです。来てもまったく勉強せず、自分の好きなことをやっているという状態が続いていたのですが、ある日から突然勉強を始めたんです。「あの子、残って数学やるって言ってるよ!」って、みんな目を丸くしていました。もちろん、こういう劇的な変化は多くはありませんが、みんな少しずつ変わっていきます。そういった成長に立ち会えるのはすごく嬉しいことだと思います。
最初は勉強する意味が分からなかったけど、自分なりに目標を持って、意欲的に勉強するようになる子もいますし、「勉強が楽しくなりました」と言ってくれる子もいます。このような変化が起きるのは、ただ勉強するだけでなく、いろんな大人といろんな話をして、世界が広がっていくことが大きいのかなと思いますね。
子どもと一緒に学べば、子どもからいっぱい学べる。
──キッズドアのボランティアはどんな方が多いですか?
以前は学生のボランティアさんも結構いましたが、コロナ禍で学生さんもいろいろ難しい状況に立たされていて、以前よりは減っています。安定的に参加してくださるのは、リタイアしたシニアの方たちですね。お仕事をバリバリしている40代、50代の方もいらっしゃいます。社会人のボランティアさんは男性が多く、平日の夜にある学習会などは仕事帰りに来てくれる男性の方も多くいらっしゃいます。ただ、全体的にはまだまだ不足していますね。
──キッズドアのボランティアに興味をお持ちの方にメッセージをお願いします。
学習支援と聞くと「子どもに勉強を教えるのか」と思われがちですが、これはちょっと違います。キッズドアにおけるボランティアと生徒の関係は、教える側・教えてもらう側ではなく「対等」です。ですから、「一緒に勉強しよう」「一緒にお話ししよう」という感じで、子どもに寄り添える方ならどなたでも参加していただけます。
キッズドアのボランティアを通して「得るものが多い」「自分に返ってくるものがいっぱいある」とおっしゃる方も多く、やりがいを持って参加していただいています。「数学、分かんないし」という方もいますが、数学が分からなくても大丈夫。ぜひ、一歩踏み出していただけたらと思います。
ボランティアさんにお話を伺いました!
──キッズドアでボランティアを始めたきっかけを教えてください。
私は高校を中退しているのですが、そのときに、昔通っていたボーイスカウトの指導者の方がすごく気にかけてくださって、自分自身、助けられたことがありました。その経験から、子どもにとって学校、家庭の他に「3つ目の居場所」があることの重要性を感じていて、大学に入ったら居場所を提供するような活動がしたいなと思っていました。大学に入ってキッズドアのことを知り、1年生のときから卒業した今でも続けています。
──子どもたちに接するうえで心がけていることはありますか?
子どもの様子をよく見て、「何を求めてここに来ているのか?」を考えるようにしています。今日のみらい塾で私が見ていた中1の女の子も、親は「大学に行けるようにしてほしい」という要望があるのですが、子どものほうはちょっと違います。実際に今日、「私は一人っ子で親も働いてるから、いつも一人でテレビばっか見ていて寂しい」って話してくれたんです。もちろん勉強は教えますが、それだけだったら、ここは彼女の居場所にはならないでしょう。
──ボランティアを通して、ご自身に変化はありましたか?
私自身、世界が広がったと思います。キッズドアのボランティアは本当にいろんな年代の方がいますし、子どもたちもいろんな子がいます。そういった交流のなかで、「自分にとっての当たり前が、他の人にとっては当たり前ではない」と感じるような経験がたくさんありました。もっと柔軟にならなきゃいけないなと思うことも多々あります。
──今後、ボランティアを続けていった先に、どんな未来があるといいなと思いますか?
隣の家の人のことを気にかけることができるような社会になったらいいなと思います。私がキッズドアでボランティアを始めたのも、ボーイスカウトの指導者の方が私のことを気にかけてくれたからです。彼にとって何の利益もないはずなのに、私のことを気にかけ、支えてくれました。
キッズドアのボランティアも同じで、みんなお金をもらうわけでもなく、子どもと一緒に2時間勉強したり、お話ししたりしています。そうやって損得なしで相手のことを気にかけることができる関係が、もっと社会のいろんなところで見られるようになったらいいなと思いますね。
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