「全国砂浜ムーブメント2021 砂浜ノートの楽しみ方&海を学ぶワークショップ」にいってきました。

日本自然保護協会の職員3名とサニエルの4ショット

「砂浜ムーブメント」とは?

日本自然保護協会(NACS-J)が全国的に実施する「砂浜ムーブメント」は、砂浜が直面する環境問題を解決し、自然豊かな砂浜を守ることを目指した取り組みです。今回は、ぼくサニエルが「砂浜ムーブメント」の一環としてオンラインでおこなわれる「砂浜ノートの楽しみ方&海を学ぶワークショップ」に参加するとともに、日本自然保護協会の志村さんにお話を伺ってきました。

日本自然保護協会 志村さんの写真

豊かな日本の砂浜を守る「砂浜ムーブメント」

砂浜と海の写真
遊びやレジャー、行事の場として昔から利用されてきた砂浜は、海に囲まれた日本にとって貴重な財産。

「砂浜ムーブメント」について教えてください。

日本自然保護協会では毎年、「自然しらべ」というイベントを実施しています。自然しらべでは、年によってテーマを変えて子どもたちと一緒に様々な生き物を探したり、自然観察をしたりするのですが、2019年からは砂浜をテーマにした自然しらべとして砂浜ムーブメントをスタートしました。「豊かな日本の砂浜を守り続けるために、砂浜を見る目を増やしたい」を合言葉に、様々な活動をしています。

なぜ、砂浜に着目したのでしょうか?

日本は海に囲まれた島国であり、海岸線のなかでも砂浜はとても貴重な財産です。砂浜は、その美しい景色はもちろん、遊びやレジャー、行事の場として昔から利用されてきました。また、波を減衰させることから海岸法で海岸保全施設の一つとしても位置付けられています。

このように砂浜は重要な財産であるにもかかわらず、人の手によって改変が進められたり、大量の海ごみが押し寄せたりして、砂浜の自然が失われつつあります。「このままでは日本の砂浜がなくなってしまう」「豊かな日本の砂浜を保全していかなければ」といった思いから立ち上がったのが砂浜ムーブメントです。

過去の砂浜ムーブメントでは、子どもたちと一緒に砂浜に行って海浜植物の観察をしたり、砂浜のごみ拾いをしたりしていましたが、コロナ以降は本日のようなオンラインイベントが中心になっています。本日の「砂浜ノートの楽しみ方&海を学ぶワークショップ」では、貝殻を使ったリース作りや、砂の中からのマイクロプラスチック探しを予定しています。

「海への入り口」である砂浜が失われつつある。

志村さんの写真
日本自然保護協会で事務局長を務める志村さん。

日本の砂浜の現状を教えていただけますか。

日本の海岸線は岩場や断崖絶壁になっている場所も多く、砂浜は海岸線のうち2割程度と意外と少ないんです。しかし、私たちが海に行くときはほとんどの場合、砂浜を経由して行っていると思います。私たちにとって砂浜は「海に行く入り口」のような場所だと言えます。

海と陸との接点である砂浜は人間にとって使いやすい場所なので、これまでも人間によって手が加えられてきました。たとえば、本来は砂浜や砂丘であったエリアまで家を建てたり道路を作ったりと、砂浜の改変が進んでいます。有名な砂浜でも、実は今残っているのは本来の面積の半分以下だったりと、痩せた砂浜が多くなっているのが現状です。

ダムで堰き止められて砂の供給が減り、陸側は護岸されて幅が狭まっているところに気候変動で海面が上昇すると、砂浜はますます減っていきます。「21世紀末には日本の砂浜の6割が完全に消失する」と予測している研究結果もあります。

砂浜が失われると、どのような影響が出てきますか?

砂浜は、海の自然と陸の自然の「移行帯」のような場所です。そのため、植物にしても海の植物から陸の植物へとグラデーションのように少しずつ変わっていくのが本来の姿です。砂浜と言うと、砂がある場所だけを思い浮かべるかもしれませんが、海の中で砂が溜まっているところから陸の植物への移り変わる前のエリアまでを含めて「砂浜生態系」は成り立っています。しかし、人工的に道路や護岸が作られると砂浜が分断され、その結果、本来砂浜で暮らす生き物の居場所がなくなってしまいます。

砂浜には、貝やカニ、植物などいろんな生き物がいますが、私たちが子どもたちに伝えるときは「ウミガメが産卵できなくなる」というお話をすることが多いですね。ウミガメは砂浜に卵を産むので、砂浜が狭くなると産卵できる場所も減ってしまいます。ウミガメはニワトリのように自分で卵を温めず、代わりに太陽に温めてもらうのですが、砂浜が狭いと卵に波が被ってしまいます。波が被ると卵が冷えてしまうので、子ガメがかえりません。ですから、広い砂浜が必要なんです。

また、砂浜は「海の領域」であり、本来人間が住むのには適していない場所です。昔、砂浜にあったのは作業小屋のような簡易的な施設だけで、人の住居はもっと内陸にあったそうです。そこに、だんだん家が建てられたり道路が作られたりしてきたわけですが、そのような場所は自然災害が起きたときに被害が大きくなりがちです。高潮や台風で海沿いのエリアに被害が及ぶことがありますが、そういう場所って、普段から砂が飛んできていたり、ハマヒルガオ(典型的な海浜植物)が咲いていたりするんです。

砂浜は、海のプラスチックごみを減らすための最後の砦。

プラスチックごみが大量に打ち上げられている砂浜の写真
プラスチックごみが大量に打ち上げられている砂浜
海ごみが打ちあがった海岸の写真
重量的には漁業資材が多いが、一見きれいに見える砂浜でも生活由来のプラスチックごみが普通に見られる

砂浜に打ち上げられる海ごみのお話がありましたが、詳しく教えていただけますか。

砂浜の保全を考えるうえで海ごみは大きな問題であり、特にプラスチックごみは厄介です。分かりやすいところで言えば、魚や鳥がエサと間違えてマイクロプラスチック(直径5mm以下の微小なプラスチック)を食べてしまったり、漁網がウミガメの体にからまってしまったりといった問題があります。それだけでなく、プラスチックを加工するときに用いられる添加物が海中に溶け出して環境ホルモンになるという指摘もあります。その化学物質を、海を漂うマイクロプラスチックが吸着して運んでしまうことも問題視されています。

日本でもレジ袋の有料化など、やっと海ごみを減らすための取り組みが始まりましたが、実はプラごみ問題は20年も30年も前から放置されてきた問題です。軽くて丈夫で安いプラスチックは人間にとって便利だったので一気に普及したのですが、それがごみになったときのことはきちんと考えられないまま、ずっと使われてきてしまいました。

プラスチックは非常に分解されにくい物質で、ペットボトルが自然分解するのに400年、レジ袋でも10年、20年かかると言われています。プラスチックごみが海に浮いているうちは、まだ回収のしようがありますが、細かくなると比重が崩れて沈んでしまいます。そうなると、もう回収のしようがありません。ですから、プラスチックごみが海に流れ出す前に、陸上で回収することが重要なんです。その意味で、砂浜は海を汚さないための「最後の砦」とも言えます。

プラスチックごみが砂浜にあるうちに回収すべきだということですね。

そうですね。今日は、事前に参加者のみなさんにお送りしておいた「砂浜の砂」からマイクロプラスチックを探してもらうワークショップをおこないました。このワークショップで伝えたかったことの一つとして、砂浜のごみは意識して探さないとなかなか気付けないということがあります。マイクロプラスチックのような小さなごみはなおさらですね。一見きれいに見える砂浜でも、意識して探すと相当量のごみが見つかるのが現状です。

また、ごみ拾いをするときは、「ごみ」と「ごみでないもの」を見分けることも重要です。砂浜をとにかくきれいにしようと思うと、「砂以外のもの」を片っ端から回収してしまいがちですが、たとえば、貝殻や海藻は自然のものであり、ごみではありません。残しておかないと、逆に砂浜の豊かさが失われてしまいます。

砂浜に生えている植物を取り除くのもいけません。「雑草だから刈り取った」という話を聞くことがあるのですが、植物があることで砂が集まり、そこから砂が蓄えられていったりします。ですから、雑草だと思って取り除いてしまうと砂が付く場所がなくなり、砂浜が痩せる原因になってしまいます。

砂浜のごみ拾い以外で、プラスチックごみを減らすのに大切なことは何ですか?

日本はペットボトルの回収率が高い国で、約9割はリサイクルされています。にもかかわらず、ペットボトルが大量に砂浜に打ち上げられているのは、そもそも使う量が多すぎるからなんです。日本では年間に約230億本のペットボトルが生産されていますので、そのうち9割を回収できても、20億本以上は回収されずにどこかに行ってしまっているということになります。

ご家庭でごみをきちんと分別することも大切ですが、今、SDGsなどで世界的な流れになっているように、現状ではサスティナブルではないプラスチック製品を減らすことこそが根本的な解決策になるはずです。日本における使い捨てプラスチックの使用量はアメリカに次ぐ世界第2位であり、ペットボトルだけでなく、お惣菜の容器やコーヒーのカップなど、一度限りの使い捨てプラスチックが大量に使われています。ですが、そのなかにはプラスチックでなくてもいいものってたくさんあります。

マイボトルが代表的な取り組みですが、一人ひとりの心がけ次第でプラスチック製品の使用・購入を減らすことはできるはずなので、今できることから始めてほしいなと思います。

アプリを使って砂浜の生き物探し&ごみ拾いを!

子ども向けのオンラインワークショップには、この夏、約120人の子どもたちが参加。

砂浜ムーブメントで使われている「砂浜ノート」について教えてください。

陸の自然を理解する教材はたくさんある一方で、海の自然を知る教材ってとても少なく、書店に行っても魚の図鑑があるくらいということもあります。特に砂浜については専門で調べている学者さんも少なく、研究が遅れている分野です。そんななかで、「砂浜の自然について理解できる教材があったらいいのにね」と考えたのが、砂浜ノートを製作するきっかけになりました。

砂浜ノートは、「学校で配りたい」「自然保護の活動で配りたい」など、各方面からご好評をいただいています。砂浜ムーブメントの特設サイトからお申し込みいただけますので、ぜひお子さんと一緒に砂浜ノートを持って、砂浜の自然観察に出かけていただければと思います。

>> 砂浜ムーブメントの特設サイトはこちら
https://www.nacsj.or.jp/sunahama_movement/

砂浜ムーブメントはアプリと連携した取り組みもありますよね?

砂浜ムーブメントは、生き物コレクションアプリのBIOME(バイオーム)さん、ごみ拾いアプリのPIRIKA(ピリカ)さんと共催しています。BIOME(バイオーム)は、砂浜で見つけた生き物の写真を撮って投稿することで種名が分かったり、ポイントをもらえたりするアプリです。ポケモンGOのリアル版みたいなイメージですね。PIRIKA(ピリカ)は、拾ったごみを投稿して記録できるアプリです。海ごみの8割は陸から来ているので、砂浜だけでなく街中でのごみ拾いも大切です。

このようなアプリを活用すれば、コロナ禍でも一人で砂浜の観察やごみ拾いができて、オンライン上で全国の仲間とやり取りができます。みんなが砂浜で見つけた生き物や拾ったごみをアプリ上で共有することで、日本の砂浜の現状を知るきっかけにもなると思います。もちろん、夏休みの宿題や自由研究にも役立つので、どんどん使ってほしいですね。

>> BIOME(バイオーム)のダウンロードはこちら   
https://biome.co.jp/app-biome/

>> PIRIKA(ピリカ)のダウンロードはこちら
https://sns.pirika.org/

砂浜に行って、見て、気付いてほしい。

三好さんとサニエルの写真
ワークショップを担当した日本自然保護協会の三好さんとサニエル。

最後にメッセージをお願いします。

少し散歩するだけでも楽しくて、気持ちが晴れるのが砂浜です。今回の貝殻を使ったリース作りは、「砂浜って、こんなにきれいな貝殻が落ちてるんだ!」ということを知ってもらうのも、狙いの一つでした。今はコロナ禍なのでみんなでワイワイとはいきませんが、ぜひお子さんと砂浜に出かけて、楽しい思い出づくりをしてもらえたらと思います。

砂浜に行き、「こんなところにも生き物がいるんだ」「この貝殻はなんだろう」と足を止めてもらい、「よく見ると結構ごみが落ちてるね」と気付いてもらう。そんなことが、砂浜や海の自然の大切さを感じるきっかけになったらいいですね。

また、子どもたちが大きくなったときに、楽しんだり癒やされたりできる砂浜を残しておくのは大人の役割じゃないかなと思っています。プラごみのリサイクルはもちろんですが、プラスチックを使う量を少し減らしてみることにもチャレンジしてもらえると嬉しいです。

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ホームページ:http://www.nacsj.or.jp/
電話番号:03-3553-4101
住所:東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
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