ゴールボールを始めたのは高校時代、きっかけは人数合わせ。
辻村さんは、どんなきっかけでゴールボールを始めたのですか?
僕がゴールボールに出会ったのは高校時代です。高校は盲学校に入学したのですが、もともとはバンドマンになりたくて、高校でもスポーツをするつもりはありませんでした。でも、ゴールボール部が大会に出るために人数合わせで呼ばれて・・・。だから、ゴールボールが好きで始めたわけじゃないんです(笑)。
高校に入るまでもスポーツの経験はほとんどありませんでしたが、盲学校のなかでは運動ができるほうだったので、最初の頃は「おれがやらないと」という義務感のような気持ちでやっていました。
選手としてのキャリアを振り返っていただけますか。
選手生活は9年くらいになりますが、17歳でゴールボールを始めたときは体がものすごく細かったんです。体重45kgのスーパーモデル体型(笑)。なので、最初は体づくりからでした。
ゴールボールの攻撃の一つに「バウンドボール」というのがあります。バウンドボールは弾んでくるので、ディフェンスするときは壁をつくるように体を横たえてボールを止めるのですが、体が細いと、当てることができても後ろに弾いちゃったりするんです。だから、当時はとにかく太ろうと思って1日5食くらい食べてましたね。
ゴールボールを始めて2年くらいは、つらい時期が続きました。点も取れないし失点も多いし、代表のランキングでも最下位の常連だし。「こいつ、使えないな」って思われてたんじゃないですかね(笑)。転機になったのは、2013年の世界ユース大会。日本代表としてプレーして金メダルを取って、初めて「勝つ喜び」を実感しました。そのあたりからゴールボールも楽しくなってきて、代表のレギュラーにも定着できるようになっていきました。
選手として成長できた理由はどんなところにあったと思いますか?
練習や実戦の積み重ねもありますが、自分としては大学時代の経験が大きかったと思っています。大学は、聴覚・視覚に障がいを持つ人が通う筑波技術大学に入ったのですが、当時はゴールボールのサークルがありませんでした。だから、当時の恩師と一緒にゴールボールチームを作って、部長として約2年活動したんです。
自分が一から作ったチームで、日本選手権などの国内大会に出場した経験は大きかったですね。チーム全体をまとめる難しさを知りましたし、試合中に仲間の様子を把握したり、試合展開を読んで状況判断できたりするようになったのも大学時代でした。本当にいい経験ができて、選手として成長できたと思っています。
ゴールボールは騙し合いのスポーツ。相手をあざむく戦術も魅力の一つ。
もっとも印象に残っている大会について教えてください。
ちょうど4年前、2015年のアジアパシフィック選手権です。日本男子は4位に終わり、リオへの出場を逃しました。同じ大会で数日後、女子は金メダルを取ってリオへの出場を決めました。僕は応援席から見ていましたが、女子が勝った瞬間の「あの複雑な気持ち」は忘れられません。女子はおめでとうだけど、男子はダメだった。悔しかったし、悲しかったし、いろんな意味で印象深い大会でした。
個人としては、日本チームの得点王でアジアでも得点3位になったので自信になりましたが、チームは負けてしまったので、「もっと取らなきゃダメだ」という気持ちも強くしましたね。
ゴールボールの魅力はどんなところだと思いますか?
3人で力を合わせて点を取り、力を合わせてゴールを守り、チーム一丸となって勝利を目指すのが最大の魅力です。
ゴールボールはよく「騙し合いのスポーツ」と言われますが、まさにそうで、戦術面も魅力の一つだと思います。たとえば、あの相手選手は手のディフェンスが苦手だから、足、足、足と当て続けてから手のほうに投げて得点を狙うのも戦術の一つです。だけど、当然その戦術が毎試合思ったようにうまくいくわけではなく、双方のコンディションや試合の流れなど、いろんな条件によって変わってきます。
見えない状況下で最適な戦術を選択して、しかもコントロール良く投げていくのは簡単ではありませんが、それこそがゴールボールの醍醐味。観る人にも楽しんでいただけるポイントかなと思います。
辻村さんご自身、どんなプレースタイルの選手だと思いますか?
僕は、コートを縦横無尽に動いての「速い移動攻撃」を得意としています。あとは、声かけですね。試合展開に合わせてチームに的確に声をかけていくのも僕の持ち味。ゴールボールにおいてコミュニケーションは、戦術を伝えるためにもチームを鼓舞するためにも、すごく重要な要素なんです。
日本代表はどんな特徴のチームですか?
日本は、頭を使って点を取るのが得意なチームだと思います。分かりやすい例で言えば、ボールを持っていない選手が投げるフリをするプレーがあるのですが、ダミーの動作をすることによって相手チームが反応して、一瞬「あっちから来るかも!」って体や耳が寄るんです。その瞬間に違う方向から投げるとタイミングをずらすことができて、得点の確率も上がります。
このような頭脳プレーのバリエーションが多いのは日本代表の特徴なので、試合を観るときは、ぜひそのあたりにも注目してもらいたいですね。
選手としてプレーで魅せる!そして、ゴールボールの認知度アップへ。
今後の目標を教えてください。
今は少し状態を落としていて、今回のアジアパシフィック選手権には選考されませんでした。ですから、まずはコンディションを上げて、選手としてもっと上を目指していきたいですね。
将来的には、ゴールボールの魅力をもっと多くの人に伝えていきたいと思っています。そのためには、地道な発信など、認知度を高める活動が重要です。今は選手として観る人を魅了するようなプレーをすることが第一ですが、たとえば引退した後も、ゴールボール関連のイベント・活動には積極的に参加していきたいです。長期的にゴールボールの面白さを伝えたり、選手の雄姿を発信したりしていければと思っています。
今大会ではラジオの解説をされているそうですね。
はい、そうですね。ゴールボールって、外から観ているとシュールなスポーツだと思うので、初めてゴールボールを観る人にもできるだけ面白く伝えていこうと試行錯誤しながら話しています。
解説の仕事は初めてですが、楽しくやらせていただいています。でも、もともとは人前で話すのが大の苦手だったんです。最近になって何度か講演会やラジオに出させてもらうようになり、徐々に慣れてきたのかなと思います。
女子チームのコーチも務めていると伺いました。
はい、コーチもやらせていただいています。選手に自分の経験を伝えるのはもちろんですが、選手がどうしたらうまくプレーできるのかを考えて、提案するのがコーチの仕事だと思います。チームによって特徴が違うので、チームの特徴に合わせて自分のやるべきことを考えながらコーチをしていますね。
今は選手としてのプレーが最優先ですが、いずれは男子でも女子でもコーチをできたらいいなと。何かしらの形で、日本のゴールボールの発展・強化に貢献していきたいと思っています。
広い世界に出てみれば、見えなくても「発見」がたくさんある。
最後にメッセージをお願いします。
ゴールボールというスポーツに少しでも興味を持っていただいたら、ぜひ一度、生で観ていただきたいと思います。そして、試合を観て「ゴールボールって面白いな」って思ってもらえたら、SNSでも拡散してくださいね。そのときは「#ゴールボール」をお忘れなく(笑)。
ゴールボールは毎年、日本選手権などの国内大会がおこなわれていますが、まだまだマイナーでお客さんが少ないのが課題です。選手は、見えないだけに会場の声援がものすごく励みになりますから、もっとお客さんを増やして盛り上げていきたいと思っています。そのためには、僕たちがプレーで魅せていかなければいけません。「カッコいいな」「見えてないのにすごいな」って思われるようなプレーをたくさんお見せできるよう、僕を含めて選手みんなで頑張っていきたいです。
視覚障がいをお持ちの方へメッセージをお願いします。
僕自身、打ち込むものがない高校時代でしたが、ゴールボールに出会ったことで人生が変わりました。ゴールボールをやってきてよかったなと思えるのは、人とのつながりが増えたことです。いろんな発見ができたし、やりたいことも増えたし、社会に出るって本当に大事なことだなって実感しています。
視覚障がいがあると、「目が見えない」だけでなく、「世の中が見えていない」ことが結構あると思うんです。僕自身がずっとそうでしたから。でも、何かを始めて社会に出ることで、人とのつながりが増えていきます。そうすると、視力の有無にかかわらず「今まで見えていなかったもの」がどんどん見えるようになってきます。
だから、失敗を恐れずに新しいことを始めて、どんどん社会に出ていってもらいたいなって思います。ゴールボールに限らず、他のパラスポーツでも、音楽でも、ダンスでも、何でもいいんです。広い世界でいろんな発見をしてください。そのときに、選択肢の一つとしてゴールボールを選んでくれる人が少しでも増えたら嬉しいです。
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