ピースジャムが行っている育児期の交流活動について教えてください
地域の親子と地域住民が参加する交流活動です。
内容は、手作り雑貨や料理教室のワークショップ、季節ごとのイベントやBBQ、野外散策など様々です。2011年より毎月行ってきまして、当初は地域の公民館で行っていました。大自然の中に自社工房を作った2014年以降は、工房を拠点に活動しています。
なぜその活動を始めたのか教えてください
親子間や地域住民との交流の促進を目指しています。
日本全体がそうなのですが、昨今は少子化と核家族化が進んでワンオペ育児になりがちです。問題がなければ良いのですが、中には頼る家族や友人、知人がいないと不安が募りますし、子にかかりきりとなれば親自身の自由な時間が持てず、精神的あるいは体力的にもピークを迎えやすいと思います。
実際、育児期のDVやネグレクトの背景にワンオペ育児の苦悩を抱える当事者が多いことは数多のデータでも分かっています。そもそも辛く孤独になれば自明の理です。そして父親の育児参加を促進する運動も昨今は見るようになりましたが、それが象徴する通り母親が集中して子育てをしているのが日本社会の現状を表しています。
ピースジャムの活動エリア「気仙沼」に目を向ければ、上述に加え高齢化と少子化に並んで人口減による過疎化も深刻なスピードで進んでいるため、母親同士が出会って交流を開始する場や機会が著しく少ないのです。
そのため母親ひとりあたりの関係人口を増やす場と機会を設け、育児へ必要なノウハウやママ友やコミュニティを生成し、互いに助け合うことができるようにと始めました。
活動によってどのような変化がありましたか
活動の時期によって異なる印象があります。特に東日本大震災が起きた2011年から2013年にかけては心の傷跡が深く、精神的なケアやつながりを求めている人が多い印象でした。
「ママ友ができて嬉しい」という旨からイベント中に泣き出した母親もいました。ヨガやベビーマッサージのイベントに併せて心理カウンセラーを招聘したり、漢方医によるデトックス講座などを行ったりと、主に健康面へ意識してアプローチをしましたが、時と共に平時へと移り、徐々に心を「補う」ことだけではなく「楽しむ」ことを取り入れる需要も高まりました。
中でもピースジャム工房で開催する「あとの祭り」と題した夏祭りは、楽しむことだけに特化した奇祭です。地域の住民や中高生、教員や経営者、インターン生やNPOといった多様な大人が集結。肩書きといつも忍ばせている教育観や倫理観、正しさや常識を捨て、集まった子どもたちに多数のお手製コンテンツで挑みます。そして本気で興奮させ、煽り、負けるという丸一日をかけた催しです。
子どもは好き勝手に何をしてもいい日なので、保護者が不安になるレベルで大人も子どもも泥だらけになったり、生クリームや絵の具まみれになったりし、楽しんだ達成感意外は何も残りませんが、住民や親子の参加が異様に増加し続けることから、地元のメディアが毎度取り上げてくれるようになりました。
このように、1つ1つの活動は小規模ながら、その起点から友達ができたり、イベントを通じてママサークルが発足したり、障害児をサポートするコミュニティが生まれたり、独りの子育てに新しいバイパスが通り始めたことは良かったなと思っています。
今後はどのような活動に変化していきますか。
今まで通りこれまでの活動を継続していきたいと思いますが、ピースジャムは雇用の場の創出が主な活動のため、平行で交流活動を行っていると、スタッフが疲弊し結果需要に追い付けない回数しか実施できないという課題があります。そのため、よりサポートを行えるように保育に特化した団体と連携・協働する計画を立てました。
その名も「モリノネ」という団体で、臨床心理士や保育士、育児期の母親や活動家を中心とした人員です。モリノネはピースジャム工房へ拠点を置き、「親子向けのイベント」や「子の一時預かり事業」を行い、ゆくゆくは「小規模保育事業」と「認可外保育事業」を開始する予定ですので、交流事業だけではなく、ピースジャム工房から地域へより多くのサポートを発信できるようになります。
特に自然体験活動を軸とした子育て・保育や乳児・幼少教育へアプローチできるようになるのは当地域にとっても革新的です。豊かな自然が子の豊かな※1非認知能力の向上に役立てるよう着々と整備を進めていきます。
最後に、活動を通じた未来への期待を教えてください
10年前の気仙沼市を振り返ると、育児支援を行うNPO等の組織数はほぼゼロで、住民は市に頼るも加速化する暮らしの多様化に伴う課題に対応できるほどの窓口や体制がなかったのを覚えています。今は民間の支援組織が10程度も生まれ、官民の連携が始まり、2020年より開催を始めた※2「気仙沼 子育てタウンミーティング」では、子育て層の抱える問題にまち全体で取り組む機会が毎年生まれ続けています。
また、2021年には子育て支援をするNPOの協議体「コソダテノミカタ」も誕生し、子育て環境の改善に向けた気運の高まりを強く感じます。プレイヤーが増え各々多様に取り組み始めたその様子は、自由な1つの音同士が重なり合って曲を成す「ジャム・セッション」に似ていて、以前よりその協奏力の分、子育て環境が遥かに良くなってきていると実感しています。
見えない理想の正解や成功モデルを求めず、目の前にいる人間を見て問題解決を創造する力は、きっと子どもの未来により良い豊かさを繋いでゆくだろうと期待しています。
(※1) 非認知能力
テストなどで数値化することが難しい内面的なスキルを指します。子ども時代の経験によって得やすく、具体的には、「自己認識」「意欲」「忍耐力」「自己調整力」「メタ認知力」「社会的能力」「対応力」「創造力」などがあり、「目標を決めて取り組める」「意欲が湧く」「新しい発想ができる」「周囲と円滑なコミュニケーションがはかれる」といった力のことで、人生を豊かにする上でとても大切な能力だと言われている。
(※2) 気仙沼子育てタウンミーティング
子育てにまつわる地域課題を住民、市担当課、市長、地元企業や自治会、議員やNPO等と共に議論し、各々の立場から課題解決を図る全体集約型会議。