今と昔の子育ての違いは?子育て支援の要点を考える

NPO法人ピースジャムとは

  • NPO法人ピースジャム

2011年の東日本大震災を機に誕生した赤ちゃんとお母さんを支援する団体。宮城県気仙沼市を拠点に子育て・雇用支援を行っている。地域で安心して子育てができるコミュニティづくりを目指し、子育てと仕事を両立できる仕事場の提供と、これによる雇用の創出、お母さん同士の交流の場の提供、子どもが安心して遊べる環境づくりに取り組んでいる。

ピースジャム代表 佐藤賢さんの写真

── 最初に、ピースジャム代表の佐藤さんにお話を伺います。 NPO法人ピースジャムは、子育てや、子育て支援で何を大切に考えているのか教えてください。

ピースジャム佐藤さん:

ピースジャムの「ジャム」の部分になりますが、これはジャムセッション※1の略で、当団体が大切にしている部分です。子どもを中心に「みんなで育て合う」という観点です。逆に言えば「孤(こ)育てをしない」ということでもあります。「みんな」というのは、親や親同士、地域住民、社会環境や自然環境のことです。

ピースジャム代表の佐藤賢さん

例えば、子どもを「育てる」というのは親の役割といった印象がありますが、親だって子どもにとって何が適切なことなのか、分からないことだらけですよね。地域や家庭ごとに持っている資源や性質も様々で、一概に「これが正解」というマニュアルが存在しないのが子育てです。だから親は気負いしますが、気負いして子育てへの理想や家庭環境への理想が高まりすぎると、それができない自身(親)の立場に挫折してしまったり、ストレスから自分自身や家族に当たったり、子育てを放棄したりしてしまうケースがあります。また、頼る人がいなければより孤独を感じることも往々にしてあります。これらは真面目な方ほど陥りやすい印象があり、被害者感情が生まれることもあります。

僕はこれを「孤育て」と呼んでいます。行政の子育て支援やサービスもそうです。担当者が良かれと思って生み出したアイデアでも、子育ての当事者と対話を重ねずに作られた施策は、暮らしのリアリティに欠けていて利用者に届きにくい。自然環境や社会環境も含めて、果たして子どもにどのように届いているのか?という観点が大切だと思っています。

誰が悪いとか正しいか、責任の所在を追求し、孤に分断していくのではなく、足りない部分があったら手を取って補い合う、親も子も地域も関わり合って育ち合う、そんなジャムセッションのような繋がりが大切なのではないかと考えています。そのため、設立時からピースジャムの全事業は、精神的な繋がりや関わり合いを尊重するように運営されてきました。

── 現代の子育て期は孤独になりやすいのですか?

ピースジャム佐藤さん:

現代は便利になっていますよね。インターネット上にはなんでも載っているので、情報を蓄えることができる。また、SNSではお手本のような前向きな育児シーンを見ることもできるし、他者と繋がりも持てる。一方で、多数派の情報を理解できない場合や、他者と比較して育児環境にギャップがあった場合、控えめな性格のためコミュニティに参加ができなかった場合など、一様に自身の励みになるとは考えにくいです。

実際に、孤育ての悩みを相談される方には、他者と自分自身の子育てのギャップから悩まれる方が多く、その情報源はインターネットやSNSから得ていることが多いです。少子化に加えて核家族化が進んでいるため、インターネット上の情報が親にとってのお手本になりやすいがゆえの悩みかと思います。

また「リア充」や「キラキラ育児」など、代表的なネットスラングがありますが、それを立派な良いものとして捉え、自分自身では気付かないうちに、自分自身ではない、立派な何者かになろうとする風潮があります。悪いことではありませんが、そのギャップが毒となり、苦悩する方が多いと思います。他者に評価される立派な良い人間になるのが親子にとって幸せなのか?と考えると、違いますよね。自分自身や家庭の中の話ですから。

幸せは目の前の触れられる距離にたくさんあるはずですし、それを理解している方も多くいると思います。時代によってできることは異なりますが、幸せになりたくて生きていることは、過去も未来も変わらないことだと思います。実際に今と昔の子育てに何か違いがあるのか、変わらないことがあるのか気になりますね。地域の方にもお話を伺いに行ってみましょう。

ピースジャム工房の近くにお住まいの、花農家を営む吉田さんご夫婦(80代)にインタビューに伺いました。

写真奥が吉田さんご夫婦。快くインタビューに応じていただきありがとうございました。

── 昔の育児環境について教えてください。

吉田さん母:

私はここに嫁いで56年目で、娘と息子は50代です。

当時は、農業が忙しくて子育てについて考えたり、子どもに使ったりする時間はあまり取れませんでしたが、暮らしに関わる部分の接点は多かったです。例えば、稲刈りの際には、子どもたちが親と一緒に稲運びをしたりしましたね。

吉田さん父:

そうそう。昔は全校で農繁休業※2っていうのがあって、農業の手伝いもしたし、その手伝いの中から学ぶこともできた。そこから地域の皆との関わりが生まれやすかったね。よその子っていう感覚ではなくて、地域全体で育てるのが当たり前でね。昔、子どもは「日本の宝」って日本中で言っていたんだよ。戦後は、父親がいない事も珍しくなくて、子どもの数も一時減ったけれども、みんなで育てればなんの心配もない。

家庭教育について言えば、年中忙しい農家では土台無理な話なんだけど、当時は学校の先生が家庭教育まで教えてくれていたんだよ。修身※3って言ってね。

吉田さん母:

うちの子、よその子っていう考え方は一般的ではなかったですね。私の子ども時代は大家族が当たり前だったので貧しいのが普通。だから地域全体で支え合うことも当たり前でした。「奪い合うと足りない 分け合うと余る」という言葉がありますが、本当にそれです。親のない子どもには、うちの母親が運動会のお弁当を作って持参したり、寒い日には綿入れ半纏(防寒具)を作ってあげたりと、その子とは未だに懇意な関係ですよ。

ピースジャム佐藤さん:

その隔てのない支え合いは素晴らしいですね。僕もそこを目指して活動していますので、大変勉強になります。ちなみに修身というのは、僕(47歳)の時代は道徳という名前に変わって、小学校時代に週に1回勉強した記憶があります。正解がない科目のため苦手な時間でしたが、今思えば他者の心や自分自身に向き合う最も重要な科目だったのかもしれません。大人になってから1番考えさせられるテーマなので(笑)

吉田さん父:

保身ばかり考えると奪っちゃうんだよな、人は。人も動物だから本能なのかもしれないけれど、他者を労ったり、大変な時は一緒に考えたり、いろんなことを分け合うことができるのが人間の良いところだと思うよ。

当時は子育ても同じでね、放っておいても子どもは色々なものに触れて、関わって育ったんだよ。子ども会※4もあったし、地域の大人が関わる接点はたくさんあった。今の時代は便利だし、当時に比べて経済的にも豊かなはずなのに、なぜ人との関わりが減ったり、孤独や心が苦しかったりする人が多いのだろうね。

ピースジャム佐藤さん:

心の教育があまりにも少ない時代になったから、というのは関係あるかなと思います。

通知表では道徳が評価されることがないので、非合理的な時間ということで忌避された経緯が歴史的にあるそうですが、道徳や修身という言葉に限らず、また学校や家庭を問わず、心の教育は必要かなと思います。いじめによる自死者の多い日本だからというのもありますが、大人になって社会を作る側になった時はどうでしょうか。損得勘定の「得」だけを学べば社会全体がサバイバルになりますが、他者や環境への配慮である功徳の「徳」も学べば、社会はもう少し優しくなれるかもしれません。

「大人は子どもの成れの果て」という言葉を聞きますが、僕も実際に幼少時の経験や感覚が今の自分自身を作っているので、負担をひとりで抱えない、利益をひとりで独占しないという幼少時の学びや感覚が、社会を生きていく段階で礎のようになっている気がします。

── 育児で大切にしてきたポイントはなんでしょうか?

吉田さん父:

子どもは自分が思ったようにしか動かないということ。

親が「ああしろこうしろ」と言っても子ども自身が納得しなければ、それっぽいことをやらされているだけであって、その子の実になることはないよね。かといって、親が子どものわがままに何でも従うということでもない。子どもの意見をちゃんと聞いて、子どもが何をしたいのかを親自身や周囲が理解すること、そして子どもとどう関われるかを考えることが大切だと思うよ。

吉田さん母:

私は世間体を捨てること。

他の家庭の子どもと比較して、我が子の足りないところを周りの基準に合わせようと、親がもがくのではなく、その子どもの性格や気持ちに寄り添うことを大切にしてきました。

長男が高校時代に不登校になった際は、家業を継いでもらおうと思い、仕事を手伝ってもらいましたが、3年後に理容師を目指す夢を語ってくれたので、中学時代の恩師に理容学校の願書を申請してもらい学校に通うことができました。今は引っ張りだこの理容師として頑張っています。先生も家庭も、焦らずに子どもの気持ちに寄り添ったことが良かったと思います。

吉田さん父:

世間に合わせる必要はないんだよね。

世間ではなく、自分の身の丈にあっているかどうかが大切。渋沢栄一さんも言っているけれど、蟹は自分の身の丈に合った穴を掘って住処を作るよね。自分の力量に応じて努力することのほうが大切だと思う。

ピースジャム佐藤さん:

蟹穴主義※5のお話も聞けて嬉しかったです。 吉田さん、貴重な時間をいただき本当にありがとうございました。

ピースジャムのお母さんにも同様にお話を聞いてみましょう。

子育て談義をするピースジャムの小林さん(左)とモリノネの松田さん(右)

── 子育てで大切にしているポイントなどありましたら教えてください。

ピースジャム岸さん:

うーん、子どもが4人いて子育てについて考えている余裕がないですね(笑)その日を過ごすので精一杯です。ただ、うちの場合は1番上のお姉ちゃんが自主的に「子ども会議をしよう」と兄弟に呼びかけて、家庭内のことで兄弟の各々が何をできるかを、親のいない部屋で話し合って決めていますね。例えば部屋の片付けや家事の手伝いなどです。

親が叱っても子どもは慣れちゃってなかなか聞いてくれませんが、お兄ちゃんやお姉ちゃんといった、より身近な人に言われると、意外と納得するみたいです。そのため子ども同士で考えてもらい、子ども同士で解決してもらう、自主性を尊重しています。

ピースジャム佐藤さん:

それってすごいですね。小さな子のお手本になったりもしますね。

ピースジャム岸さん:

私たちも振り返れば身近なお兄ちゃんお姉ちゃんがお手本になっていましたよね。ちなみに、うちの子が通っている学校自体がそうで、小学5~6年生の子が下級生に学校でのマナーやルールを教えたり、相談に乗ったりする環境なんですよ。

ピースジャム佐藤さん:

子どもの気持ちや都合は、子どもたちの方がよく知っていますもんね。大人よりもちょうどいい感じの距離感だからできる対話があるのでしょうね。

ちなみに小林さんはどうでしょうか?

ピースジャム小林さん:

特にこれといって「コレだ」ということはないのですが、子どもの成長の過程で起きる変化に寄り添うようにしています。

例えば、このあいだ下の娘が小学校1年生になったのですが「学校に行きたくない」と言いはじめ、そのうち「学校を辞める」と言って、朝から泣く状況が続いていました。幼稚園時代のクラスメイトも変わり、先生や上級生も増えて、環境が一変したことが要因のようです。

ピースジャム佐藤さん:

環境の変化は、大人も子どもも関係なく緊張しますもんね。長い緊張はストレスになりますし。小林さんはどのようにサポートされましたか?

ピースジャム小林さん:

段階があって今も続けているのですが、ここ2ヶ月は一緒に学校に行くトレーニングをしました。徐々に学校に行くことに慣れて、今では帰りは笑って帰ってくるようになりましたよ。

ピースジャム佐藤:

彼女(小林さんの娘さん)は、実は社交的なのに照れ屋さんだから、知らない人だらけでとっつきにくかったのかもしれませんね。個性に向き合っていくことが大切な点、大変勉強になりました。これも親子で歩んだ成長の轍になっていくのでしょうね。 岸さん、小林さんありがとうございました。

── 佐藤さん、今と昔の子育ての話を聞きましたが、どの点に違いや共通点を感じましたか?

ピースジャム佐藤さん:

子どもと大人の立場や役割は、時代によって異なる文化や社会規範によって変わってきました。しかし、子どもたちが幸せになること、そして彼らの成長を支援するという願いは、家庭の中であれ外であれ、変わることのない普遍的な価値でしたね。

また、どの時代にも、理想とされる生き方がありますが、それを自分や子ども、パートナーに無理に当てはめたり、演じたりすることはしばしばあります。しかし、それは一時的な流行に過ぎず、社会が推奨する傾向を超えて、自分自身や周囲が本当に幸せかどうかをシンプルに考えることの方が、より重要であると僕は感じました。

皆さんのお話が大変参考になったと感激の佐藤さん。

── 今後、子どもにどのような関わりが大切だと考えますか?

ピースジャム佐藤さん:

今回の皆さんのお話を受けて、子どもや大人の立ち位置や役割についての考えを深めると、僕たち大人はしばしば、社会的な期待や規範に縛られがちであることに気づきます。そしてそれらは、自分自身や個々人の幸福感や満足度とは必ずしも一致しないものだと思います。

例えば、教育やキャリアの選択、生活様式の決定の際、社会が定める「成功」という概念が、必ずしも一人ひとりの価値観や幸せと同じ価値を持つわけではありません。このギャップが孤を生む要因になり得ますが、このギャップを埋めるためには、まず自分自身が何を価値あるものと考え、何に幸せを感じるのかを自問自答することが必要なのかもしれません。

子どもたちにとっても、彼らが自分自身と向き合い、自分の心に正直に生きることを学ぶことは、成長の過程で非常に重要だと感じました。親や教育者、地域社会全体としても、大きく「子ども」という枠組みで見るのではなく、子どもたち一人ひとりが持つ独自の才能や興味、価値観を尊重し、それを伸ばすための機会や支援を、できる範囲で惜しまず与える姿勢が今後重要になってくるのではないかと思います。

また、子どもや大人が社会の中でどのような立ち位置を選ぶかは個人の自由ですが、その選択を、時世の「成功」や「正しさ」で測るのではなく、尊重する文化を育むことが、より豊かで多様性に富んだ社会を築く鍵となるでしょうし、一人ひとりが自分らしさを大切にし、互いの違いを認め合いながら、共に成長していくことに繋がっていくのではないかと感じました。

── 最後に一言お願いします。

ピースジャム佐藤さん:

自然環境の豊かな気仙沼ですが、そこに住まう人々の心も豊かです。昔から水産業を中心に多様な人々との交流があるためか、多様な価値観を受け入れるホスピタリティの精神が息づいています。

この人々の心と自然環境は、初めからあったわけではなく、関わり合いの中で育ってきた文化であり、この地特有の貴重な資源ではないかと思います。いつか子どもたちが大人になった時、このふるさとのアイデンティティを誇れるように、今ある環境を守っていきたいと思います。

佐藤さん、ありがとうございました。

※1 ジャムセッション:本格的な準備や、予め用意しておいた楽譜にとらわれずに、ミュージシャン達が集まって即興的に演奏をすること。本記事では、関わり合いを意味する。

※2  農繁休業:農村の小・中学校などで、農繁期に授業を一定期間休むこと。

※3  修身:旧制の小・中学校などの教科のひとつ。教育勅語をよりどころとする道徳教育。

※4  子ども会:主に地域の自治会毎に運営される子育て支援会。日常の情報交換のほか、季節の催しや、祝いの場を皆で共有する。近年では少子化の影響によって、子ども会を解散する自治会が増えている。

※5 蟹穴主義:自分の力を過信して非望を起こす人もいるが、進むことばかりを考えて分を守ることを知らぬ、という渋沢栄一の信条。

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