今回サニエルが訪れたのは、気仙沼市八瀬地区の山あいを流れる清流。
ピースジャムが子育て支援の拠点にしているピースジャム工房から車でおよそ30分。昔から地域の人たちに親しまれてきたこの川は、夏でもひんやりとした空気に包まれ、透き通った水が静かに流れています。
この清流には、アユやヤマメ、イワナも暮らしているのだそう。水の中をのぞけば、小さな生き物たちとの出会いも待っています。
ここで川遊びを主催しているのは「自然あそび保育モリノネ」。里山に囲まれた気仙沼市落合地区を拠点に、”自然とともに育つ”を大切にした保育を行っている団体です。
モリノネは、代表・深澤鮎美さんの「自然保育のできる場所をつくりたい」という想いに、ピースジャムが共感したことをきっかけに、2022年からピースジャム工房を共同利用する形で活動をスタートしました。以来、ピースジャムは同じ拠点で子育て・雇用支援を続けながら、モリノネの保育や親子イベントを支える協働パートナーとして、日々の活動に伴走しています。
この日のイベントには、地域から親子合わせて16名が参加しました。
それでは自然いっぱいの川辺をのぞいてみましょう!
思い思いに楽しむ、初夏の川遊び
川へ足を入れた瞬間、

「冷たーい!」
子どもたちの元気な声が山あいに響きます。
最初はおそるおそる川へ入っていた子も、しばらくすると夢中になって水の中へ。
石を一つずつ裏返し、生き物を探す子。
浅瀬にしゃがみ込み、小さな石を何度も手に取って眺める子。

ライフジャケットを着け、流れに身を任せながら空を見上げる子。
遊び方は、誰一人同じではありません。
「魚いた!」
「あっ、カニ!」
一人の発見に、周りの子どもたちも自然と集まってきます。子どもたちの声につられて、保護者も思わず川をのぞき込みます。
少し離れたところでは、お父さんも川にぷかりと浮いています。
何か特別な遊びをしなくても、ただ川に浮かんでいるだけで夏を感じられる。
水の音や木々を渡る風に包まれながら、それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。
そんな自由な時間を、少し離れた場所から見守る大人たちの姿も印象的です。
足元には、小さな発見がいっぱい!
川遊びのお楽しみは、泳いだり流れに身を任せたりすることだけではありません。
よーく水辺を見渡すと、あちらこちらに小さな命が隠れています。
水の中をすいすい泳ぐオタマジャクシ。
川辺で羽を休めるミヤマカワトンボ。
水面を軽やかに進むアメンボ。
大人なら見過ごしてしまいそうな場所も、子どもたちにとっては宝探しのフィールドです。
「何かいる!」
その一言で、みんなが一斉に集まります。
誰かが見つけた発見が、みんなの発見になる。そんな場面が、何度も繰り返されていました。

自由に遊べるのは、見守る人がいるから
自然の中には、「こう遊びなさい」という決まりがありません。
だからこそ、子どもたちは自分で面白いものを見つけ、自分なりの遊び方を広げていきます。
「でも、自由に遊ぶことは、子どもを放っておくことではないんです」。
そう語ってくれたのは自然あそび保育モリノネ代表のあゆちゃん。

川へ入る前には、その日の水量や流れを確認し、子どもたちの年齢や経験に合わせて遊ぶ場所を選び、ライフジャケットを着用します。スタッフや保護者も、必要なときにはすぐ手を差し伸べられる距離から、子どもたちを見守るのだそうです。
「危ないからやめよう」と何でも止めるのではなく、「やってみたい」という気持ちを大切にしながら、安心して挑戦できる環境を整える。
その見守りがあるからこそ、子どもたちは思い切り自然を楽しむことができると、あゆちゃんは話します。
川遊びを支える、地域の皆さんのひと手間

子どもたちが遊ぶ川辺を歩いていると、足元の草がきれいに刈られていることに気づきます。
聞けば、子どもたちが安全に川へ降りられるよう、地域の皆さんが事前に草刈りをしてくださっているのだそうです。
子どもたちが夢中で遊ぶ、その少し前から、川遊びを支える準備は始まっていました。
こうした地域の方々との関わりは、子どもたちにとってどのような意味があるのでしょうか。引き続き、あゆちゃんに聞いてみました。
サニエル:地域の方々とのつながりは、子どもたちにとってどんな意味がありますか?

あゆちゃん:地域の方が声を掛けてくれたり、子どもたちの様子を少し離れたところから見守ってくれたり。そうした何気ない関わりが、少しずつ積み重なっています。
自然の中で遊ぶことはもちろん大切ですが、子どもたちが地域の人たちに気に掛けてもらいながら育っていけることにも、大きな意味があると思っています。
顔を合わせるたびに声を掛けてもらったり、以前会ったことを覚えていてもらったりすると、その場所が子どもたちにとって少しずつ身近なものになっていきますよね。地域の方々にとっても、子どもたちの元気な姿を見たり、成長を感じたりすることが、楽しみの一つになっているのではないかと思います。
子どもたちだけが地域に育ててもらうのではなく、子どもたちがいることで、地域の中にも新しい会話やつながりが生まれていく。
そんな相互関係が自然に育っていくことも、モリノネが大切にしていることの一つです。
サニエル:なるほど、ありがとうございます。
それでは、ずっと石を観察している佐藤さんにも聞いてみましょう。
自然体験と子どもの成長のつながり

佐藤さん:自然体験の価値は、単に「自然に触れた回数」だけでは測れないんですよね。
大切なのは、子ども自身が選べる余地があること。そして、その時の子どもの心に余白があるかどうかだと思ってるんです。
自然の中には、遊具のように決められた使い方がありませんので、同じ場所にいても、動き続ける子もいれば、一つのものをじっくり観察する子もいます。その子が今、何に関心を持ち、どう関わろうとしているのかによって、体験の内容が変わりますよね。
こうした自分で選ぶ遊びには、試してみる、予想と違えばやり方を変える、誰かの姿を見て取り入れるといった過程が含まれています。大人が見ていて失敗しそうな物事でも、本人には大きな発見の連続かもしれません。自分の感覚を使って状況を理解し、適応する力を育てる時間にもつながっていくと思います。
文科省の調査では、外遊びの時間が1日1時間に満たない幼児が4割を超えています。
一方、国立青少年教育振興機構の調査では、自然体験や生活体験が豊富な子どもほど、自己肯定感が高いという傾向も示されているんです。
ただし、自然体験をさせれば、自動的に自己肯定感が高くなるという単純な話ではないんですよ。
子どもが自分で選び、やってみたことを周囲の大人が認める。その積み重ねによって「自分で決められた」「自分なりにできた」という感覚が生まれます。
大人になった今振り返ると、子どもの頃に自分で試行錯誤した経験って、意外と残っていますよね。
だから私たちが大切にしているのは、自然そのものだけではなく、子どもの主体性を支える関わり方でもあります。
サニエル:子どもの自由と安全を、自然の中でどのように両立するのですか?
佐藤さん:私見ですが「危険をすべてなくすこと」と「安全な環境をつくること」を分けて考える必要があると思います。
子ども自身では発見しにくく、大きな事故に直結する危険は、大人が事前に取り除かなければなりません。例えば川遊びであれば、水量や流れ、天候、足場、活動する範囲などを確認する必要があるでしょう。
一方で、管理された範囲の中で、子ども自身が気づける小さなリスクまで先回りして取り除いてしまうと、自分で判断する経験が失われてしまいます。
大人の役割は、何でも禁止することでも、自由に任せきることでもありません。子どもの年齢や経験、その時の様子を見ながら、挑戦できる範囲を調整することです。
安全管理は、自由を制限するためのものではなく、子どもが安心して挑戦するための土台です。

見守る大人が「まだ無理」と決めつけるのではなく、「どこまでなら自分でできそうか」を一緒に考える。その関わり方が、危険を察知する力や、自分の行動を調整する力につながっていくと考えています。
そして、こうした関わり方は、子どもだけでなく大人にも小さな変化をもたらしてくれるんです。子どもが挑戦する姿を周囲の大人が見守り、保護者同士もその時間を共有することで、親子のつながりや、地域で子どもを見守る関係も少しずつ育っていきます。
自然体験には、子どもの成長と、地域の親子のつながりを同時に育んでいける魅力があると思いますよ。
サニエル:自然体験は、地域の親子にどのようなつながりを生むのでしょうか?
佐藤さん:はい、子どもの育ちを考えるとき、本人の能力や家庭の努力だけに注目してしまいがちですよね。
でも実際には、家族のほかにも、友達や保育者、地域の大人、日々過ごす場所など、たくさんの人や場が、その子の育ちに関わっています。
例えば、一人ひとりの子どもに注目すれば、自然体験はその子の主体性や判断力、自信を育む機会となります。一方、地域全体という視点で見れば、自然体験は、普段は接点のなかった親子が自然に出会う場にもなります。
NPO法人子育てひろば全国連絡協議会が母親を対象に行った調査では、子育て支援拠点(親子が気軽に集い、交流できる地域の「ひろば」)を利用する前に「子育てをしている親と知り合いたかった」と答えた人が約72%、「子育てをつらいと感じることがあった」と答えた人が約63%に上っています。
この数字からも、子育て家庭が必要としているのは、情報やサービスだけではないことが分かりますよね。
深い悩みを相談する関係になる前に、まずは顔を知っている人がいる。「また会いましたね」と言える相手がいる。こうした、ゆるやかなつながりが地域にあることも大切ですよね。
自然体験では、最初から交流を目的にしなくても、同じ場所で子どもを見守り、同じ発見を一緒に楽しむ中で会話が生まれます。子どもを中心にしながら、保護者同士や地域の人たちが無理なくつながれる。問題が起きてから支援するだけではなく、普段から孤立しにくい関係をつくっておくという意味で、予防的な子育て支援にもなると思います。
自然体験は、子どもにとっては成長の機会であり、地域にとっては親子をゆるやかにつなぐインフラでもある。私たちはそう捉えています。
サニエル:地域の方による草刈りも、そのインフラの一環なのでしょうか?
佐藤さん:そう思います。
インフラというと、建物や道路のような目に見える設備を思い浮かべますが、子どもが安心して育つためには、場所だけでなく、それを支える人の関わりも欠かせません。
地域の方が草を刈ってくださることは、単なる作業ではなく、「子どもたちがここへ来ることを知っている」「安全に遊んでほしいと思っている」という想いの表れでもあります。
子どもたちは、その一つひとつを理解しているわけではないかもしれません。
それでも、自分たちを迎えてくれる場所があり、見守ってくれる人がいる。そういった日々が、地域への安心感や愛着につながっていくのだと考えています。
だからこそ、自然だけを切り離して体験するのではなく、そこに暮らす人たちの営みや思いにも触れていく。それこそが、地域の中で自然体験を行う大きな恩恵だと思います。
サニエル:モリノネとの協働を通じて、これからどのような風景をつくっていきたいですか?
佐藤さん:モリノネには、子どもの発達を見ながら、自然の中での学びを引き出す専門性がありますし、ピースジャムには、地域の子育て家庭と関わりながら、必要な支援やつながりを考えてきた経験があります。
そして、子どもたちを温かく迎え、活動を支えてくださる地域の皆さんがいる。
それぞれが同じことをするのではなく、役割や強みを持ち寄ることで、家庭だけではなかなか用意できない体験の場が生まれているんですよね。
私たちがつくっていきたいのは、こうした風景が特別なものではなく、地域の中に自然にあることです。
川で一緒に遊んだ親子が、別の場所で再会して「この前は楽しかったですね」と声を掛け合ったり、子ども同士が顔見知りになり、その周りで保護者や地域の方々にも少しずつ会話が生まれていく。
そんな何気ないつながりが増えていけば、子育てを家庭だけで抱え込まなくてもいい地域に近づいていくと思います。
地域の自然は、地域の人たちにとっても身近な存在です。
その場所を、子どもたちが育ち、親子や地域の人たちがつながっていく場所として、みんなで守り、活かしていく。
モリノネや地域の皆さんと一緒に、そんな当たり前の風景を少しずつ増やしていきたいですね。
サニエル:川遊びを通して育まれていたのは、子どもたちの力だけではありませんでした。親子のつながりや、子どもたちを見守る地域の輪も、この場所で少しずつ育っているのですね。
モリノネの皆さん、佐藤さん、ありがとうございました。













