生息環境の悪化と密猟により、減少するサシバ。
──「サシバ」という鳥について教えてください。
サシバは渡りをする猛禽類で、春に日本や朝鮮半島で繁殖をして、秋に沖縄や台湾を経由して東南アジアで冬を越します。日本はサシバの主な繁殖地であり、昔から私たちの身近な場所で子育てをする鳥でしたが、近年その数が減少しており、2006年には絶滅危惧種に指定されました。
かつて日本にあったサシバの繁殖地の3割くらいは無くなっているという報告もありますし、たとえば、沖縄・宮古島では1980年代はワンシーズンで4万~5万羽のサシバがいたのに、近年は1万羽を下回っているというデータもあります。
──なぜ、サシバは減少してしまったのでしょうか?
原因の一つは、サシバの生息環境が悪化していることです。サシバは、いわゆる「里山」と言われるような環境を好みます。田んぼや畑、雑木林があり、人が利用している場所は生物多様性が豊かで、サシバが餌にするカエルやヘビなどがたくさんいますからね。ですが日本では年々、里地里山が減少しており、サシバにとっても暮らしにくい環境になっているのが現状です。
もう1つの原因として挙げられるのが密猟です。実は、サシバという鳥は長い間各地で密猟がおこなわれてきた鳥なんです。日本では、80年代にはほぼなくなりましたが、それ以前は沖縄の宮古島などでサシバが密猟されていました。
フィリピンでも伝統的にサシバの密猟がおこなわれてきましたが、最近になって根絶できました。数年前に、ワンシーズンで3,000~5,000羽ほどのサシバが密猟されているという事実が分かり、何とかして密猟を止めてもらうべく、我々と地元の野鳥保護団体が連携して自治体に働きかけたんです。
フィリピンの人たちにとってココナッツはすごく大切な資源ですが、地元の大学生の研究で「サシバはココナッツの実につくコガネムシを食べる」ということが分かりました。ですから、「サシバは、みんなの大切なココナッツを守っている」といった啓蒙をするなど、様々な働きかけを続けた結果、フィリピン北部でのサシバの密猟がなくなったんです。
サシバを守るためには、国境を越えた連携が欠かせない。
──今回のサミットは、減少するサシバを守ろうという趣旨で開催されるのですね。
そうですね。ただ、サシバを守ると言っても、繁殖地である日本だけで保全活動をしていてもあまり意味がありません。サシバは渡り鳥なので、サシバを守っていくためには中継地や越冬地の生息環境も保全していく必要があります。
そういった意味で、今回のサミットは「繁殖地・中継地・越冬地が連携して、みんなでサシバの生息地を守っていこう」という考えがベースになっています。第1回は繁殖地である栃木県市貝町でサミットをおこないますが、中継地、越冬地であるフィリピンや台湾、宮古島からも自治体の方やサシバの研究・保護活動をしている方などが参加します。
──市貝町はサシバの繁殖地として有名な場所なのですか?
市貝町は、サシバの生息密度が日本一高い場所です。2014年から、市貝町は「サシバの里づくり基本構想」を掲げ、サシバを街づくりのシンボルとして、サシバが住む自然豊かな里地里山の環境保全に取り組んでいます。
こうした取り組みから、地元の方々も徐々にサシバに関心を持つようになっていますので、今回のサミットも地元の方々を主体としたイベントにしようと思っています。サシバを守っていくためには、やはりサシバが生息する場所に暮らす人々が「サシバを守っていこう」という意識を持つことが大切です。「今年もサシバが来たね」って喜んだり、「市貝はサシバに選ばれる自然豊かな場所なんだ」って誇りを持ったり、地元の方々がそういうふうに思えることがいちばんですよね。
ですから、サシバサミットには地元の方々に関わってもらい、中継地や越冬地の方々と思いを共有してもらいたいです。継続的にサシバを保全していくためには、そういった交流が欠かせないと考えています。
里地里山の価値を見直すことが、生物多様性の保全につながる。
──市貝町のような里地里山は全国的に減少しているのですか?
そうですね。高齢化や人口減少など様々な要因がありますが、今、日本の里地里山は荒廃が進んでいます。生物多様性が豊かな里地里山は農業効率が良くないんです。水はけを良くしたり水路をコンクリートで舗装したりすれば農業効率は上がりますが、逆に、生き物は住みにくくなって、生物多様性は失われていきます。魚やカエルやヘビがいなくなると、サシバは食べるものがなくなって子育てできなくなっちゃうんです。
たしかに農業効率も重要ですが、里地里山の環境にもすごく価値があるんだってことを知ってほしいですね。「いろんな生き物がいる田んぼっていいよね」とか、「地域の原風景を守っていきたいよね」とか、地域の人たちがそういう価値観を持てるような働きかけをおこないたいと思っています。里地里山の維持・再生は、サシバを守っていくために重要な取り組みになりますからね。
──サシバ保全や環境保全に興味のある方へメッセージをお願いします。
サシバをシンボルにしているかどうかは別にして、今、全国的に「里地里山を守ろう」という動きが盛んになっています。興味のある方は、そういった活動に参加してみてほしいですね。
活動に参加しなくても、近くにある里地里山に足を運んでみたり、そういう場所で生産されたものを食べてみたりするだけでもいいと思います。そういうことを通して、一人でも多くの方に里地里山の価値を見直してもらったり、自然を守っていく大切さを感じてもらえたりしたら嬉しいですね。
国際サシバサミット 1日目「シンポジウム」
国際サシバサミットの1日目はシンポジウム。サシバの中継地・越冬地である台湾、宮古島、フィリピンで保護・研究をおこなう団体など、約300人の方が参加しました。樋口広芳東京大学名誉教授による基調講演のほか、各地の団体によるサシバ保護・研究の取組発表などもおこなわれました。サニエルは、ポスター発表をしていた「サシバの里協議会」の関澤さんにお話を伺いました。
──サシバが減少している現状をどう捉えていますか?
やはり、谷津田(やつだ:谷地にある水田・湿田)が荒れ地になっているのが大きな原因だと思います。もう一つ、サシバ以外の猛禽類であるオオタカやトビが増えていることも関係しているでしょう。つまり、「場所取り合戦」になっているんです。猛禽類の他にも、カエルやオタマジャクシを食べる鳥が増えてきています。昔に比べてカエルが減り、カエルが減ればヘビも減り、鳥たちの餌がなくなるという悪循環に陥っているのが現状です。
市貝に限らず、日本の谷津田は荒廃していく一方です。農業と密接に関わってくる問題ですが、地域だけでどうにかできる話ではなく、国レベルで考えなくてはいけないようなことですよね。
──市貝町のいいところを教えてください。
昔に比べて減っているとはいえ、やはりサシバがやってくる自然豊かな環境があり、生態系が豊富です。我々も生態系の一員ですから、生き物にとって住みやすい場所は、人間にとっても住みやすい場所。カエルもサシバも人間も暮らしやすいっていうのは、市貝のいちばんの自慢ですね。
> サシバの里協議会について(https://sashibanosatokyougikai.jimdo.com/)
国際サシバサミット 2日目「エクスカーション」
国際サシバサミットの2日目はエクスカーション(体験型の見学会)。Aコース「サシバの里自然学校体験」と、Bコース「市貝町の里山めぐり」がありましたが、サニエルはAコースに参加しました。田んぼの生きもの観察や薪割り&火起こし体験をした後、炊きたての羽釜ご飯とアユの塩焼きを堪能。ボランティアとしてお手伝いに来ていた大学院生の森嶋さんにお話を伺いました。
──サシバが減少している現状をどう捉えていますか?
私は森林生態学を研究していて、里山林の保全・管理といったテーマも扱っているのですが、そのなかで感じるのは、里山を管理する側の人がその資産価値に気付いていないということです。昔からこういう場所で暮らしている方って、自然があるのが当たり前すぎて「管理をする」っていう概念がないんだと思います。そういったことも、里山の減少やサシバの減少につながっているのかもしれません。
──市貝町のいいところを教えてください。
田んぼがあって、山があって、湿地があって、いろんなバリエーションの自然がある貴重な場所だと思います。だからこそ、今回のサシバサミットのように、県外からもっと多くの人に来てほしいですね。
特に、子どもたちが自然に触れるには絶好の環境があります。最近は、「生き物が好きで図鑑をよく見るけど、実物は見たことない」っていう子も多いですが、市貝には実物がたくさんいます。水族館などで見るのと違って、自分で探して見つける感動もあるみたいですね。サシバの里自然学校では宿泊イベントなども開催していますので、多くの子どもたちに参加してほしいなと思います。
>> サシバの里 自然学校について(https://www.sashiba-ns.com/)
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ご支援、その他のお問合わせはこちらで受付けております
公益財団法人 日本自然保護協会
ホームページ:http://www.nacsj.or.jp/
電話番号:03-3553-4101
住所:東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
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