毎年全国同じテーマで行われる自然しらべ
「自然しらべは、子どもから大人までどなたでも参加できる市民参加型の自然調査です。毎年テーマを変えながら、全国各地で自然環境を調べています。調査を通じていろいろな生物や自然と触れ合い、楽しみながら自然を大切に思う気持ちを育むことがこのプログラムの目的です」と話すのは、日本自然保護協会の萩原さん。
自然しらべは、1995年に起きた長良川河口堰(せき)の問題を広く知ってもらうため、河川を調査し始めたのをきっかけに、毎年、里山や海などさまざまなフィールドにおいて幅広いテーマで実施している。参加者の約7割が自然しらべのことを雑誌や新聞などで知った一般市民であり、夏休みの自由研究を目的とする子どもの参加者も多い。素人にもわかりやすい自然観察のポイントが記載された参加マニュアルがあるので、誰でも気軽に参加できる。
「自然しらべでは調査精度を高めるため、調査記録には調査場所や日付とともに写真も添付して送っていただきます。全国から寄せられた調査結果は、日本自然保護協会で分析・データ化し、報告書や結果レポートとしてアウトプット。お子さんが調べた調査結果もきちんと一つの貴重なデータとして扱われます(萩原さん)」
自然しらべの報告は冊子としてまとめられる他、行政へ環境提言の資料として提出されることもある。
「実際、『日本のカメさがし!』というテーマで開催した2013年の自然しらべでは、全国でカメの生息状況が調査され、その報告を環境省にしています。外来種のミシシッピアカミミガメが増加し、在来種のカメが減少しているという報告結果は、カメの保護対策を見直すきっかけになったのではないかと思います。(萩原さん)」
自然しらべ2017は、「うなぎ目線で川・海しらべ」!
自然しらべ2017のテーマは、「うなぎ目線で川・海しらべ」。川と海で暮らす二ホンウナギは、今大きく数を減らしており、2013年には環境省の絶滅危惧種IB類※に指定されている。
「ニホンウナギは、南の海で産卵し黒潮に乗って日本の川にやってきて遡上(そじょう)し成長します。しかし、川に堰がたくさんあるとうなぎが遡上できず、生育に大きな影響を与えてしまいます。今回の自然しらべでは、川や海がうなぎにとって生育しやすい環境であるかどうかを調査します。調査のポイントは、堰の高さです。堰の高さが40㎝を越えると小型の二ホンウナギの多くが堰を越えられず遡上が難しくなります。また、川をとりまく環境が自然に近い状態であるかどうかも、うなぎの生育環境にとっては重要です(萩原さん)」
「今回のテーマを通して、参加者が川や海とその周辺の自然と触れ合い、うなぎの生息環境に問題があることが明らかになっていけばいいと思います。また、全国から寄せられた調査結果をもとに報告を作成しますが、河川法が改正されて今年で20年になるので、このタイミングで調査結果を発表することで、堰(川の横断工作物)の問題を再検討してもらえるきっかけになればいいですね(萩原さん)」
※IA類ほどではないが、近い将来において野生での絶滅の危険性が高いもの
「自然しらべ2017 うなぎ教室(八王子)」開催!
自然しらべでは、毎年テーマに合わせて全国各地で自然調査のイベントを開催している。今回参加した「うなぎ教室(八王子)」も、東京都八王子市にある大栗川をフィールドにした自然しらべ2017のイベント。夏休み期間中ということもあり、約60名の親子が集まった。
「イベントの参加者は毎回20~60名くらい。自然に興味のある親子が参加されることが多く、中には生き物や植物について詳しい自然博士のようなお子さんもいらっしゃいます。みなさん積極的に参加してくださるのがうれしいですね(萩原さん)」
「うなぎ教室(八王子)」は、中央大学の海部先生によるうなぎ講義と、大栗川でのフィールド観察の2部構成。うなぎ講義でうなぎの生態に関する知識を深めた後、大栗川にうなぎはいるのか、うなぎにとって生育しやすい環境であるかを調査する。
中央大学海部先生による「うなぎ講義」
中央大学でうなぎの研究をしている海部先生によるうなぎ講義。「(世界地図を見ながら)うなぎはどこで生まれるかわかりますか?」という海部先生の質問を皮切りに、子どもたちと先生が言葉のキャッチボールを繰り返しながらの活発な講義が始まる。
「うなぎは川にいるよ」「海で生まれる」などと子どもたちが次々に発言し、海部先生はその意見に一つひとつ答えながら、うなぎがどこで生まれどのように成長しどこで生涯を終えるのか、うなぎの生態についてひも解いていく。子どもたちは海部先生の話に興味津々!
「うなぎは南の島の海で、卵を産みます。そこからずーっと流されて日本や朝鮮半島の海などにたどり着き、川の中で10年近く成長します。成長したら、卵を産むために再び海に戻ります。すなわち、うなぎは海と川の両方で生きている。これはすごく重要なことです。うなぎは海と川の両方がないと生きていけません。(海部先生)」
「日本の川や湖で捕るうなぎの量は1960年には2,000トンもありましたが、2015年には68トンまで減っています。もっともうなぎを捕る人も減っているので、うなぎが減少しているとは一概には言えませんが、捕れている量は確実に減っているんです。うなぎが減っているなら増やすにはどうしたらいいのか?一つは、うなぎが増えている速度よりも遅い速度でうなぎを捕ること。もう一つは、うなぎが早く増えるように、うなぎが大きく育つ自然環境を整えることが大切です。(海部先生)」
大栗川でうなぎ&生き物探し、スタート!
うなぎ講義の後は、みんなで近くにある大栗川へ。大栗川は多摩川の支流で、多摩川を通じて東京湾とつながっている。
大栗川での観察のポイントは4つ。「大栗川にうなぎがいるかどうか」「うなぎにとって棲みやすい場所であるか」「うなぎは大栗川までたどり着くことができるか」「うなぎと同じように、海と川を行き来している生き物がいるかどうか」。
土手を降りて川に入り、子どもも大人も目を凝らして川の中にいる生き物を探す。探し始めてすぐに、「すごいいっぱいエビがいる!」「小さい魚がたくさんいるよ!」「岩の下に隠れてるよ!」など、子どもたちの歓声があちこちで聞かれる。見つけた生物はタモですくって、プラスチックのカゴへ。エビや小さな魚など様々な生物を採取できた。
観察結果の振り返り&まとめ
生き物を探した後は集まって、どんな生物を川で見つけたかをみんなで確認。
「みんなが見つけたのは、カワムツとその子ども、エビ、ドジョウ……。残念ながらうなぎは見つけられませんでした。みんなが見つけたエビやその他の生き物も、おそらく海では暮らしていない生き物でしょう。私は大栗川で3年調査を続けていますが、川と海を行き来するエビやカニ、魚に遭遇したことは一度もないし、うなぎも一度も見ていません(海部先生)」
「うなぎが川に棲むためには、うなぎが川に上れる環境であるかということが大切ですが、残念ながら大栗川はうなぎにとって棲むのに適しておらず、川を上るのが難しい環境のようです。主流の多摩川には魚道(魚が上るために設置された道)があるけれど、大栗川には魚道がありません。大昔の大栗川はくねくね曲がっていてうなぎが生息しやすい環境でしたが、ニュータウン開発により川はコンクリートで固められ、真っ直ぐ水が流れるようになったことで、うなぎにとってよくない環境になってしまいました(海部先生)」
今回のイベントでは、大栗川のうなぎの生息状況とその環境について調査したが、大栗川ではうなぎを見つけることはできず、うなぎが生息しにくい環境であることがわかった。
「うなぎ教室を通して、子どもたちがフィールドで川の生物と触れ合うことができ、講義でうなぎが減っている現状を知り、その危機を知っていただけたと思います。このようなイベントは毎年開催していますし、自然しらべは全国どこでもできるので、ぜひ興味を持って参加していただきたいですね(萩原さん)」