盲導犬ユーザーが行きたい場所に行けるよう、店舗・施設での受け入れ拒否をゼロにする

サニエルと安保さん、盲導犬との3ショット写真

日本盲導犬協会とは?

日本盲導犬協会は昭和42年の設立以来、目の見えない人、目の見えにくい人が行きたい時に行きたい場所へ行くことができるよう、安全で快適な盲導犬との歩行を提供している団体です。視覚障害者の社会参加を促進するため、盲導犬の育成や視覚障害リハビリテーションなど様々な活動をおこなっています。今回は、ぼくサニエルが日本盲導犬協会の神奈川訓練センターにお邪魔して、安保(あんぼ)さんに「盲導犬ユーザーの受け入れ拒否」についてお話を伺ってきました。

日本盲導犬協会の安保さんの写真

依然としてなくならない盲導犬ユーザーの受け入れ拒否

日本盲導犬協会の広報・コミュニケーション部・安保氏の写真
日本盲導犬協会の広報・コミュニケーション部で普及推進担当を務める安保さん。

──盲導犬ユーザーの受け入れ拒否の現状について教えてください。
日本盲導犬協会は「目の見えない人、目の見えにくい人が、行きたい時に、行きたい場所へ行くことができるように」という使命のもとで活動をしていますが、まだまだ盲導犬ユーザーが店舗・施設などで受け入れ拒否に遭うことが多いのが現状です。

2020年度に、私たちに相談が寄せられた盲導犬ユーザーの受け入れ拒否事例は34件ありました。2019年度が90件でしたので数字だけ見ると減っていますが、コロナ禍によってそもそも外出する機会が減っているだけだと考えられます。

私たちの調査では、盲導犬ユーザーが受け入れ拒否に遭う場所としてもっとも多いのは飲食店で、次いで医療施設、小売店と続きます。受け入れ拒否をする事業者の理由としてよく聞かれるのが、犬の衛生面に関する懸念の声です。たしかに飲食店や医療施設は衛生管理に気をつかう場所ですが、盲導犬ユーザーには厚生労働省の手引きに従って盲導犬の衛生管理をすることが義務付けられていますので、本来、盲導犬の受け入れによって衛生的な問題は生じません。それでも受け入れ拒否が起きてしまうのは残念なことだと思っています。

──受け入れ拒否が起きてしまう原因として多いのはどんなことでしょうか?
そもそも、事業者には盲導犬ユーザーを受け入れることが義務付けられています。具体的には「身体障害者補助犬法」と「障害者差別解消法」という2つの法律が根拠になっています。身体障害者補助犬法は、盲導犬をはじめとする身体障害者補助犬の受け入れを事業者に義務付ける法律で、障害者差別解消法は、身体障害者補助犬の受け入れも含め、障害を理由とする差別をなくし、障害者の社会参加を推進する包括的な法律です。私たちの調査では、これらの法律を知らないことが受け入れ拒否の原因になっているケースが全体の3分の1程度ありました。

ただ、受け入れ拒否の原因としてもっとも多かったのは教育不足でした。つまり、店舗・施設として盲導犬ユーザーの受け入れ義務があることは知っているものの、現場の従業員への周知徹底が図られていないということです。

盲導犬ユーザーに求められたときに、その場でできることをすればいい

盲導犬訓練士学校を併設する神奈川訓練センターの写真
盲導犬の育成のみならず、日本で唯一の盲導犬訓練士学校を併設する神奈川訓練センター。

──障害者差別解消法では事業者に「合理的配慮」が求められていますが、これはどういう意味ですか?
「合理的配慮」と聞くと難しそうに思えるかもしれませんが、簡単に言えば「その場でできることをする」──ただそれだけのことです。また、障害者の求めに応じて提供するものなので、何かを求められたときに、それに対して自分ができることを考えれば良いのです。

盲導犬の作業は曲がり角・段差・障害物を教えることで、前に進むのを判断するのはユーザーです。そのため、たとえばファストフード店のレジなどで列のいちばん後ろに並んで前の人に続いて進むのは、多くの盲導犬ユーザーにとって難しいことです。このようなとき、盲導犬ユーザーが事業者に対して「列に並ぶのが難しいので配慮してほしい」といったことを伝えたとしましょう。これを受けて、たとえば従業員を一人付けてサポートしたり、注文の順番が来るまで椅子に座って待ってもらったり、事業者がその場でできることを考えてサポートするのが合理的配慮です。

障害者差別解消法のベースになっている「障害の社会モデル」という考え方があります。障害の社会モデルとは、「障害は社会が作っている」という考え方です。今お話ししたファストフードの例で言えば、「社会が作った目が見えることを前提にしたルール(注文方法)が、目が見えない方・見えにくい方にとっての注文の障害になっている」と考えるわけです。

言い換えれば、目の見えない方・見えにくい方からサポートを求められるということは、「そこに社会の障害がある」ということです。このような社会の障害を取り除くために、盲導犬ユーザーからサポートを求められたときに周りの人ができる範囲のことをしましょう、というのが合理的配慮です。

──合理的配慮をするうえで大事なのはどんなことですか?
相手とコミュニケーションをとって、相手が何を求めているのかを知ることだと思います。盲導犬ユーザーが店舗・施設に来たとき、まずはその人とコミュニケーションをとって「何を求めているのか?」「どうしたら過ごしやすくなるのか?」を聞いてみるのが、もっとも本質的で重要なことだと考えています。

目の見えない方・見えにくい方に対して「こうするべきだ」という正解はありません。一人ひとりで目の見え方は違いますし、「どのように誘導してもらうと助かるのか」も人によって異なります。私たちは事業者向けのセミナーで、盲導犬ユーザーに対する話しかけ方や案内の仕方などをお伝えしていますが、これらはよくあるパターンで一例に過ぎません。基本的には、相手とコミュニケーションを図りながら、状況に合わせた配慮をしていただければと思います。

目の見えない方・見えにくい方の利用を想定して、ハード・ソフトの環境を整える

シャンプーとリンスの区別は、どちらかのボトルに輪ゴムを巻くだけでできると言う安保さん。

─事業者としては、目の見えない・見えにくい人も利用できる環境を整えておくことも重要ですよね?
そうですね。たとえば、飲食店に視覚的なメニューしかない場合、目の見えない方・見えにくい方は注文することができません。「メニューが見えないからサポートしてください」と求められたときに、従業員の方がメニューを読み上げるのは合理的配慮の一つです。

一方で、点字のメニューや、スマホで読み取ることでメニューが音声で読み上げられるQRコードがあらかじめ用意されていれば、従業員の方がメニューを読み上げる必要はありません。このような環境を整えることを「基礎的環境整備」と言うのですが、基礎的環境整備が進んでいれば、人が個別に合理的配慮をする負担は減るわけです。

基礎的環境整備はハード面も重要ですが、仕組みづくりなどソフト面の環境を整えることも重要です。たとえば、目の見えない方・見えにくい方が宿泊施設を利用する場合、従業員の方は客室までのルートを案内したり、客室の中のどこに何があるかを説明したりする必要があります。その間、フロントに人が足りなくなれば、「代わりに誰をフロントに回す」「フロントの人数を増やす」といったルールが必要になりますよね。このように、目の見えない方・見えにくい方の利用を想定して、円滑にサポートできるように人員配置をしておくことも基礎的環境整備に含まれます。

盲導犬や盲導犬ユーザーのことをもっと知れば、受け入れる不安は解消できる

──最後に、飲食店をはじめとする事業者の方々へメッセージをお願いします。
盲導犬の受け入れって「犬を受け入れること」だと思われがちですが、決してそうではありません。本質は、目の見えない方・見えにくい方が盲導犬と一緒に行きたい場所に出かけていけるようにすることであり、それは「人を受け入れること」なんです。

もちろん、店舗や施設には犬が嫌いな方や犬アレルギーの方がいらっしゃることもあるでしょう。ですが、だからと言って盲導犬ユーザーが排除されていいということにはなりません。「どうしたらこの場所に一緒にいられるのか?」「どうしたら共生できるのか?」といったことを考えてもらいたいですし、私たちも一緒に考えていきたいと思っています。

これまでに犬が入ったことがない店舗や施設は、盲導犬を受け入れるのに不安があるのは当然のことだと思います。ですが、ほとんどの不安や心配事は「知ること」で解消できます。ですから、もっと知っていただきたいんです。

日本盲導犬YouTubeの写真
画像をタップ(クリック)するとYouTubeが見られます。

私たちは公式YouTubeチャンネルで「かいけつ動画」と銘打って、盲導犬の気になることをお伝えしています。また、定期的に事業者向けの「盲導犬ユーザー受け入れ・接客セミナー」をおこなっています。このようなコンテンツを通して、盲導犬ユーザーのことや盲導犬のことをもっと知っていただけたら嬉しいですね。

セミナーはコロナ禍になってからオンラインが中心ですが、個別の出張セミナーも承っております。店舗・施設によって構造も環境も違いますので、現場でシミュレーションしてみないと分からないことも少なくありません。出張セミナーでは実際に盲導犬や盲導犬PR犬をお連れしますので、「うちのお店を盲導犬ユーザーが利用するとこんな感じなんだ」といったことを具体的にイメージしていただけると思います。いつでも無償でお伺いしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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