盲導犬ユーザーはソーシャルディスタンスを取るのがすごく難しい
──コロナ禍は盲導犬ユーザーにどのような影響を与えましたか?
私たちがおこなった聞き取り調査で、盲導犬ユーザーから多く聞かれた困りごとが「ソーシャルディスタンス」のことでした。新型コロナウイルスの流行によって、スーパーやファストフードではソーシャルディスタンスを取って並ぶようになりましたよね。床にマークや線で並ぶ位置を示している店舗は多くありますが、あれは視覚的な情報であり、目の見えない方・見えにくい方にとって役立つものではありません。
従来のように詰めて並んでいれば、音や気配によって前の人が進んだかどうかが分かる人も、距離が広がったことで、それが分からなくなってしまったというお話はよく伺いました。適切な間隔を保ちながら前に進んでいくのって、目の見えない方・見えにくい方にとってすごく難しいことなんです。また、似たような困りごとですが、病院の待合室などで周囲の方と間隔を空けて座るのが難しいといった声もよく耳にしました。
「消毒液の場所が分からない」「商品を触りにくくなった」といったお悩みも少なくありませんでした。目の見えない方・見えにくい方にとって物を触って得る「触覚情報」は非常に重要であり、スーパーなどで買い物をするときには欠かせません。ですが、「触れる」という行為に対してデリケートになっているコロナ禍では、周囲の目が気になって商品を触って確認しにくくなってしまった方が多かったようです。
──コロナ禍だからこそ、より周囲のサポートが必要だということですね?
その通りです。たとえば、最近はセルフレジが増えていますが、目の見えない方・見えにくい方は使うのが難しく、周囲の手助けが必要になります。
また、コロナが流行した当初はマスクをしていても人に話しかけるのがためらわれる雰囲気がありました。ですから、盲導犬ユーザーからも「外出先でサポートを頼みづらい」「困っていてもサポートを依頼できない」といった声が多く聞かれました。その結果、「サポートが必要な場所には行かないようにしている」というように、外出を断念せざるを得ない方がいたのは残念なことです。
このように、コロナ禍によって目の見えない方・見えにくい方が以前にも増して不自由を強いられているということは、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思います。社会がコロナの感染を広めないために新しい生活様式を取り入れる必要はありますが、同時に、それに対応するのが難しい視覚障害者へのサポートも今まで以上に意識していただけたら嬉しいです。
各種セミナーをオンラインで開催して理解促進活動を継続。
──コロナ禍で、日本盲導犬協会の活動はどのような影響を受けましたか?
基本的に、対面で多くの人が集まるような活動は難しくなりました。たとえば、以前はよく街中で募金活動をしていたのですが、コロナ禍においてはほとんどできなくなりました。また、盲導犬ユーザーになろうとする方が盲導犬との歩行や管理の練習をする「共同訓練」も、延期せざるを得ないケースがありました。
とはいえ、私たちは「目の見えない人、目の見えにくい人が、行きたい時に、行きたい場所へ行くことができるように」という使命で事業をおこなっており、コロナ禍だからと言って活動を止めることはできません。そこで、力を入れ始めたのがオンラインでの活動です。
──オンラインではどのような活動をしているのでしょうか?
盲導犬に興味のある目の見えない方・見えにくい方やそのご家族に盲導犬の情報を届ける「盲導犬情報セミナー」、行政職員向けに視覚障害者への情報提供の方法などを伝える「視覚障害者と盲導犬情報セミナー」、小中学生を対象にした授業「盲導犬学校キャラバン」などをオンラインでおこなっています。
<以前開催された「盲導犬学校キャラバン」の様子を紹介しています>
千葉県立流山南高等学校でおこなわれた 「盲導犬学校キャラバン」にいってきました。
すでに盲導犬と歩いているユーザーへの「フォローアップ」にもオンラインを活用し始めました。たとえば、オンラインで盲導犬ユーザーの歩く様子を見て安全に歩けているかを確認したり、盲導犬との関係づくりについてアドバイスをしたりします。
また、コロナ前から店舗や施設における「盲導犬ユーザーの受け入れ拒否」が多々ありましたが、コロナ禍においても、感染防止を理由に盲導犬ユーザーが入店を拒否されたり、サポートを断られたりした事例が報告されています。犬から人へコロナウイルスが感染した事例がないにもかかわらず、「盲導犬がウイルスを持ち込むのでは?」と言われ、入店拒否された事例もありました。このような受け入れ拒否をなくすため、事業者向けのセミナーもオンラインで開催し始めました。特に受け入れ拒否が多い飲食店や宿泊施設、医療施設など対象に「オンライン盲導犬ユーザー受け入れ・接客セミナー」を開催しています。
<受け入れ拒否などについては、こちらの記事もご覧ください>
盲導犬ユーザーが行きたい場所に行けるよう、店舗・施設での受け入れ拒否をゼロにする
盲導犬について気になることを解決する「かいけつ動画」が好評
──日本盲導犬協会の公式YouTubeチャンネルを拝見しました。
YouTubeを積極的に活用し始めたのも、コロナ禍における取り組みの一つです。YouTubeで特に力を入れているのが、盲導犬や盲導犬ユーザーについてみなさんが気になることを解決する「かいけつ動画」です。
加えて、TwitterやFacebookも活用しながらオンラインでの理解促進活動に取り組んでいます。
YouTubeを活用しているもう一つの例としては、盲導犬になる前の候補犬を育てるパピーウォーカーの方々に、犬との接し方などをお伝えする「パピーレクチャー」の動画配信があります。従来は、私たちの訓練センターに来館していただいていましたが、緊急事態宣言中はレクチャー動画を作成してパピーウォーカーの方々に限定配信するようにしました。現在は訓練センターでのパピーレクチャーを再開していますが、この時に制作した動画は引き続き活用しています。
現場での活動とオンラインの活動をうまく使い分け、盲導犬への理解を促していきたい
──オンラインでの活動の手応えはいかがですか?
視覚障害者向け、事業者向け、行政向け、学校向けなど、様々な活動をオンラインで開催したおかげで、従来であれば訪問できなかった地域の方にもたくさん情報を届けられるようになりました。全国各地からお申し込みが増えており、たとえば宿泊事業者向けのセミナーには沖縄の宿泊施設の方々も参加してくださいました。物理的な距離を気にしなくていいのは、やはりオンラインの大きなメリットだと実感しています。
YouTubeにしても、私たちが動画をアップしておけば、盲導犬の情報を知りたいと思った方は時間も場所も気にせず、その方のタイミングで視聴することができます。活字だけでなく、映像で盲導犬や盲導犬ユーザーの様子を見られることもあり、多くの方からご好評をいただいております。
──逆に、オンラインでの活動の課題はどんなところでしょうか?
私たちのすべての事業をオンラインに切り替えることはできません。当然ですが、先ほど申し上げた共同訓練などは盲導犬と一緒でなければ成り立ちません。
各種セミナーは今後もオンラインでの開催を継続していきますが、一方で、実際に盲導犬を連れてきてセミナーをしてほしいというご要望も一定数あります。ですから、相手が知りたい情報や相手の状況を踏まえて、相手にとってもっとも良い方法で情報をお伝えできるような体制を整えていきたいと思っています。
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