2024年12月5日、新宿の京王プラザホテルにて、令和6年度「盲導犬新ユニット出発式」がおこなわれました。出発式には、2023年度に神奈川訓練センターにて共同訓練を終え、盲導犬との生活を始めた18組のうち15組の新ユニットが参加。当日は天候にも恵まれ、みなさん、新しいパートナーである盲導犬と共に京王プラザホテルまでいらっしゃいました。
新ユニットご挨拶
式典では、新ユニット10組の方からご挨拶がありました。みなさん、パートナーとの初めての出会い、共同訓練の日々、今日までの楽しかった出来事や苦労話、そして、これからの生活への期待などを語りました。
石井孝司さんと盲導犬アーロン
石井さんはアーロンが2頭目のパートナー。毎日の楽しみは、毎朝電気をつけた瞬間に始まる「股くぐり」。アーロンの愛情を感じる時間です。
「アーロンとは毎日楽しく職場まで通っています。職場でもみなさんに可愛がっていただき、アーロンも私も毎日ウキウキしながら通勤しています。週末も一緒にいろんなところへ出かけています。いろんな人に盲導犬を見ていただき、少しでも盲導犬の理解が広まればと思っています」
板嶌憲次郎さんと盲導犬テス
テスは3歳の女の子。板嶌さんは、「盲導犬には不思議な力がある」と言います。
「私はだんだん見えなくなる人生でした。にもかかわらず、盲導犬に出会って結構楽しく今日まで過ごしています。日々歩いたり、遊びに行ったり、仕事に行ったりしていますが、行く先々で周りの人たちをほっこりした気持ちにさせてくれます。テスは、私たち盲導犬ユーザーのみならず、取り巻く人たちみんなを豊かにしてくれる存在です」
碇谷純子さんと盲導犬トミー
トミーは碇谷さんにとって3頭目の盲導犬。甘えん坊のやんちゃな男の子で、呼ぶと大きな声で返事をします。碇谷さんは、「二人の息子が小さかった頃の感覚がよみがえる」と言います。
「目が見えなくなると、どんどん心が固くなり、生活が暗いほうへと流れてしまいます。そんな私を、どんどん明るいほうへ導いてくれるのが盲導犬です。今は、小学校で子どもたちに盲導犬教室をしたりしながら、毎日楽しく過ごしています」
大橋ちあきさんと盲導犬ダイム
ダイムは大橋さんにとって3頭目の盲導犬。「新宿駅なんて絶対に近寄らない」と心に決めていた大橋さんでしたが、出発式に参加するためにガイドヘルパーさんと3度の練習を経て、この日無事に京王プラザホテルまで来ることができました。
「私はだんだん見えなくなってきて、いろんなことができなくなっていきましたが、盲導犬がいることで世界が広がりました。行動範囲を広げてくれるだけでなく、私の心も明るいほうへ、元気なほうへと、どんどん導いてくれます」
金子直美さんと盲導犬ハッチ
金子さんにとって初めての盲導犬であるハッチ。「見えないのにグングン歩いていけることが感動」だと言います。
「通勤するとき、駅に着いて地上に出ると目の前に公園があります。そこでもうハッチは走り出したくってウズウズしているんです。よし、行こう!ストレート、ゴー!公園に入って桜並木をグングン風を切って歩いていきます。すごく気持ち良いです。毎日、ハッチと一緒に歩けて本当に嬉しいです」
尾形永樹さんと盲導犬シャルル
尾形さんは、中学時代から約10年、いつ盲導犬の貸与を受けようか悩んでいたと言います。自分の活動や生活をもっと向上させていきたいと思い、盲導犬と歩くことを決めました。
「現在は、視覚障害のことや盲導犬のことをもっと知ってもらうために、全国で啓発活動をおこなっています。これからもシャルルとたくさんいろんな場所に出かけていって、もっといろんな人に盲導犬のことを知ってもらえるように活動を広げていきたいです」
福井恵子さんと盲導犬ディオネ
福井さんが最初の盲導犬に出会ったのは22年前。4頭目のパートナーであるディオネを紹介されたとき、懐かしい気持ちに包まれたと言います。その直感のとおり、ディオネはまるでずっと前から一緒にいたかのように、日々福井さんに寄り添っています。
「小柄な子ですがとても力強く、スピード感のある歩き方でいつも私をリードしてくれます。物覚えが良く、目的地までの地図をすぐ覚えてしまいますが、私の指示をしっかりと聞いて一緒に歩いています。ディオネと一緒に、心のアルバムにたくさんの思い出を残していきたいです」
塚越豊さんと盲導犬ヨシ
ヨシは、盲導犬には珍しいスムースコリーという犬種。ルーツが牧羊犬であるからか、郵便や宅配が届くと吠えるそう。塚越さんは「インターホンは要らない」と笑います。
「ヨシと一緒に歩いていて学習能力が高いなぁと感心させられます。最初は、改札も素通りでしたが、ここにカードをタッチするんだなということを覚えてくれて、一度止まってくれるようになりました。障害物にぶつかりそうなときも、しっかりと避けてくれるので、安心して歩けます」
大堀紀子さんと盲導犬ドルチェ
初めて出会った訓練初日、パソコンを触っている大堀さんの手を押しのけて、膝の上に登ってきたドルチェ。イタリア語で「甘い」という意味を持つ名前ですが、大堀さんが「甘えん坊という意味もあるのかな?」と思うほど、甘えん坊の女の子です。
「盲導犬と歩いていると、友達がどんどん増えていきます。私は78歳ですが、この歳になってまだ友達が増えています。盲導犬を持つ魅力というのは、本当に素晴らしいなと思います」
堀江郁子さんと盲導犬クレバー
好奇心が強く、人が大好きなクレバーは堀江さんにとって初めての盲導犬。気持ちの良いスピードで歩けるのが、すごく嬉しいと言います。
「白杖で歩いていた頃は、自転車を倒したり、人にぶつかったりすることが多く、一人での外出がすごく億劫でした。でも、クレバーが来てくれてそんな心配が減りました。毎日、電車で通勤しているときも、たくさんの方に声をかけていただいて、たくさんの方に見守っていただいているんだなぁと嬉しくなります」
すべての方が笑顔で「行ってきます」と外出できる世の中を
出発式の最後に、神奈川訓練センターの福田佳代センター長よりご挨拶がありました。
「盲導犬新ユニット出発式は、盲導犬ユーザーのみなさまから楽しいお話、明るいお話、ほっこりするようなお話、うまくいかないで苦労しているお話、共同訓練中の本音エピソードなど、様々なお話を聞くことができるため、私たちも毎回、楽しみに出席しています。また、私たち職員の普段の業務が、どのように視覚障害者の生活や世の中につながっているのかを実感できる時間でもあります。
盲導犬と歩いている方、盲導犬を持とうかどうか悩んでいる方、白杖が歩きやすいと感じている方、ガイドヘルパーさんと歩くのが安心だと思っている方、いろんな歩行の仕方があります。私たちはこれからも、すべての方が笑顔で「行ってきます」と外出できるような世の中を、みなさまと共に広げていきたいと考えています」
新ユニットのみなさまは、この日を迎えるまで様々な苦労や困難があったことと想像されます。しかし、式典で聞かれたのは、日本盲導犬協会やその支援者への感謝の言葉、そしてユーモアを交えた盲導犬自慢でした。印象的だったのは、誰もが「幸せ」だと口にしていたことです。ユーザーの大堀さんは「日本人の幸福度は30ヶ国中28位」という調査結果を引き合いに出し、「盲導犬ユーザーの幸福度は100%」と語りました。
盲導犬と一緒ならどこへでも行けるという、希望と幸せに満ちあふれた素敵な式典でした。また、盲導犬の存在意義をあらためて伝え、支援の輪を広げるきっかけになったに違いありません。