現代社会に失われつつある「自然とのコミュニケーション」を。
──ツリーハウス・クリエーションの事業内容を教えてください。
基本的には、「ツリーハウス」を作っている会社です。ツリーハウスというのは文字どおり「木の上の家」ですが、「これがツリーハウス」とは言えないくらい、いろんなものがあります。依頼主も様々で、たとえば個人の方の別荘に作ることもあれば、幼稚園の園庭や街の公園、カフェやリゾート施設に作ることもあります。音楽フェスのモニュメントとして作ったこともありましたね。僕らが作るツリーハウスは目的も手段も全部違って、一つとして同じものはありません。
──ツリーハウス・クリエーションのコンセプトを教えてください。
僕らの作るツリーハウスは、できる限り工業製品に頼らず、自然のものを使うよう心がけています。木のぬくもりを感じたり、生きている葉っぱに触れたり、ツリーハウスって現代社会に失われつつある「自然とのコミュニケーション」の象徴的な存在だと思っています。
今、地方には、子どもが少なくてお年寄りばかりの限界集落も多くなっています。そんな田舎にツリーハウスを作った方から、「子どもたちの声が聞こえるようになった」と伺ったことがあります。ツリーハウスがあるから、息子さん夫婦が子どもを連れて帰ってくると。このように、ツリーハウスを通して自然と触れ合うきっかけができて、自然と遊ぶ楽しさや冒険心を知ってもらえたら嬉しいですね。
あと、僕らが作るツリーハウスの材料は、基本的に現地調達・現地加工です。発足当初から、できるだけ現地の間伐材などを使うことで森林を保護・再生していきたいという考え方がありました。エネルギーを使って、コストをかけて、遠くから木材を輸送してくるようなことはできる限りしないようにしています。現地の木がいちばんコストがかからないし、その土地の環境にいちばん適していると思いますから。
被災地復興のシンボル、難病と闘う子どもたちと家族の緩和ケアなど、様々なテーマを持つツリーハウス
──被災地復興のシンボルとしてのツリーハウスもあると伺いました。
Candle JUNEさんというアーティストに誘われて、中越地震の復興イベントのモニュメントとしてツリーハウスを作りました。中越地震を風化させず、次世代へ伝えていく。そのシンボルとしてのツリーハウスですね。毎年、新潟の長岡市で開催される「SONG OF THE EARTH」という復興イベントでは、ツリーハウスが特設ステージとなってライブやトークがおこなわれていました。このツリーハウスは去年、一つの区切りとして解体されましたが、今度はそのパーツを使って福島でツリーハウスを再生しようという動きもあります。
東日本大震災後には、C.W.ニコルさんからお話をいただき、被災地・東松島に作ったツリーハウスがあります。東松島は、震災で海沿いの学校の多くが壊滅してしまったので、高台にある森の中に学校を作る「森の学校プロジェクト」がスタートしました。とはいえ、学校の完成を待っていたら子どもたちはみんな卒業してしまいます。そこで、先行して、東松島の人々の希望を未来へつなぐシンボルとしてツリーハウスを作ることになりました。子どもたちや地域の方々と一緒にチェーンソーで木を切ったり、木の皮を剥いだり、壁を塗ったりして作った思い出深いツリーハウスです。
──その他に、思い出深いツリーハウスはありますか?
北海道には、小児がんや心臓病などの難病と闘う子どもたちのためのツリーハウスがあります。日本初の医療施設が整ったキャンプ場「そらぷちキッズキャンプ」の中にあるものです。
難病の子どもたちはもちろんですが、その家族の負担も計り知れません。お母さんは24時間面倒を見ていて、一度もパジャマに着替えたことがないという話も聞きました。こうなってくると、もう医療の域を超えていますよね。そこで、子どもたちやその家族が自然の中で病気のことを忘れ、楽しい時間を過ごしてほしいという願いで作られたのが、このキャンプ場です。その敷地内にあるツリーハウスは、難病と闘う子どもたちにも木の上からの景色を見てもらおうと、車イスやストレッチャーに乗ったままでも利用できるバリアフリー仕様になっています。
生き物だから永続しない。そんな儚さもツリーハウスの魅力の一つ。
──ツリーハウスの魅力はどんなところですか?
当然のことですが、一般的な建築物には図面があって、どの部材をどこにどのくらい使うということが事前に決まっています。図面があるということは、できる前からでき上がりが決まっているってことですよね。
一方で、僕らの作るツリーハウスは簡単なスケッチはありますが、基本的には図面を書かないことが多いんです。ということは、作りながら変わっていけるってことです。たとえば、こういう感じで陽が落ちるのなら、こっち側にステンドグラスを付けようとか。風が気持ちいいから、ここにデッキがあったらいいよねとか。現場で感じる気候風土や現地で手に入るものによって、ある程度、臨機応変に変わっていけるのが建築との違いであり、ツリーハウスの自由なところだと思いますね。
──ツリーハウスはどのくらいの高さで作るのですか?
高さは決まっているわけではありません。一般的な住宅の2階くらいの高さ(3~4メートル)に作ることが多いですが、いちばん高いものだと23メートルほどの高さに作ったものあります。ツリーハウスは、そこから見える景色が大切だと思っています。高さがあると視点が変わり、地面からの景色とは全然違って見えます。「風景を切り取れる」というか、見える景色が変わるのもツリーハウスのいいところですよね。
個人的には、「高ければ高いほどいい」と思っているんですが(笑)。ただ、最終的には樹木とのバランスで決めていきます。生えている木の位置は変えられないし、枝も切れないので、その中に収めていくしかない。そういう意味で、「木に寄り添っていく」というのも建築と違うところかな。ツリーハウスはあくまでも「木ありき」で、「木を飾らせてもらう」くらいの感じですね。
──ツリーハウス作りで難しいのはどんなところですか?
日本は自然災害が多いので、その土地のいちばん厳しい自然環境を踏まえて、それに耐えられるように作らなくてはいけません。そのためには、「台風が来たらどのくらいの風雨にさらされるのか?」とか、「何月にどのくらいの雪が積もるのか?」とか、年間を通しての自然環境を知っておく必要がある。そこが、毎回チャレンジしなきゃいけないところです。
でも、そもそも生きている木の上に作るわけだから永続することはないし、面倒を見てあげないと壊れちゃう。そういう儚さも、ツリーハウスの魅力の一つだと思っています。現代の日常ってそういうものは少ないから、ツリーハウスはある意味、良い教材になるんじゃないかなと思いますね。
ルールも約束事もない。木の上に見つけた「自分の居場所」。
──なぜ、小林さんはツリーハウスに惹かれたのですか?
僕はもともと世の中に馴染めないほうで、いろんなことをやるんですけど、何にも興味を持てずにいました。基本的にルールとか約束事があるものが苦手で、どうしても社会には居場所がないって感じてたんです。でも、ツリーハウスはそうじゃなかった。「こうしなきゃいけない」っていう決まり事もないし、どのジャンルにも属していない。秘密基地みたいな、子どもの遊びの延長みたいな、そんなところに惹かれていきました。
ツリーハウスのことを深く知るにつれ、自分でもアウトプットしたいと思うようになりましたが、その頃の日本は「ツリーハウスって何?」という感じでした。風向きが変わったのは、2005年くらいでしょうか。日本でも「LOHAS(ロハス)」という言葉が注目されるようになり、世の中が環境や健康に興味を持つようになって、そういうものの象徴みたいな感じで、徐々にツリーハウスが知られるようになっていったように思います。
僕自身も、ネスカフェ ゴールドブレンドのCMに出させてもらったりしました。北海道に流木だけを使ったツリーハウスを作って、そこで唐沢寿明さんとダバダ~♫ってコーヒーを飲むっていう(笑)。こうしてメディアにも取り上げられるようになって、少しずつですがツリーハウス制作のオファーをいただけるようになりました。
樹木本来の美しさを損なわず、安定性を備えたツリーハウスを。
──今後の取り組みについて教えてください。
今、取り組んでいるところで言えば、「構造計算に基づいたツリーハウス」ですね。建築物として成り立つツリーハウスを作るために、構造・設計の専門家の方々と一緒に進めているところです。櫓(やぐら)のようにすれば構造は安定するかもしれませんが、それだと樹木が持っている本来の美しさが消されちゃう。僕は、もともとの木の美しさを活かして作るのがツリーハウスだと思っているので、柱を立てたりするのは嫌なんです。だから、いかにデザインを維持したまま構造的に安定させられるかっていうところを追求しています。
今のツリーハウスって法的にあいまいな部分が多いのですが、構造計算に基づいたツリーハウスができれば法整備も進んでいくと思います。そうすれば、宿泊施設としてのツリーハウスとか、いろんな展開が見えてきますよね。
──ツリーハウスに興味のある方々へメッセージをお願いします。
体験してみないと分からないことって、たくさんあるじゃないですか。なので、一度近くのツリーハウスに足を運んでいただきたいですね。ツリーハウスに行ってみたら、「なんか落ち着くよね」って感じるかもしれないし、「こんなの危ないじゃん」って思うかもしれない。いずれにしても、実際に体験してみてどう感じるかってことが大事だと思います。
その結果、「ツリーハウスのある暮らしって素敵だよね」って思えたなら、ぜひ声をかけていただきたいですね。喜んでお手伝いさせていだだきます。
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