4つの支援で困窮子育て世帯を応援。
――キッズドアの「ファミリーサポート」とは何ですか?
渥美さん:
2020年のコロナ禍で打撃を受けた困窮子育て世帯に、緊急支援という形で食料をお送りしたのがファミリーサポートの始まりです。その後も、コロナ禍による失業や物価高など、困窮世帯から苦しい声が届いており、ニーズに応えるため、食料や文具などの「物資支援」だけでなく、「情報支援」「就労支援」「体験活動支援」と支援を拡充していきました。この4つの支援を総称して「ファミリーサポート」と呼んでいます。
ファミリーサポートは、0歳から22歳の大学生までのお子様のいるご家庭を対象としています。23年3月の登録者数は4,000世帯ほどでしたが、24年11月14日時点で4,300世帯を超えており、支援を求める声が増えていることを実感しています。
――ファミリーサポートの「物資支援」について教えてください。
渥美さん:
学校給食がなくなる夏休みと年末年始に食料をお送りしたり、企業・団体からご寄贈いただいたランドセルや文具、スニーカーなどの物品をお送りしています。
今はちょうど、「冬の食料支援」に向けて準備を進めています。困窮世帯には、クリスマスプレゼントやお年玉をもらえず、「クリスマスもお正月も来なければいい」と思っている子どもがたくさんいます。さらに、年が明けると受験や新入学が控えており、何かと出費がかさむ時期です。子どもの制服を買うためにキャッシングローンを組む方もいらっしゃいます。こうした厳しい現状から、今年の冬の食料支援は、子どもが新入学を控えている世帯を対象に実施することにしました。
粉ミルクを薄めて赤ちゃんに飲ませている家庭が少なくない。
――冬の食料支援では、どのようなものを送るのですか?
渥美さん:
昨今の物価高もあり、まずは「お米」です。年末年始の雰囲気を感じてもらうため、「お蕎麦」や「お餅」もお送りする予定です。また、クリスマスに少しでもお子様に喜んでもらえるように、「お菓子」も入れたいと思っています。チョコレートなど、クリスマスっぽい甘いお菓子が良いですね。
夏の食料支援のとき、お送りしたホットケーキの粉を使ったアレンジレシピや、冷凍保存のコツなどをまとめたチラシを同梱しました。また、お母さんがいないときでも電子レンジでチンして食べられる冷凍パスタや冷凍おにぎりのレシピも同梱しました。それがすごく好評だったので、今回も、お餅のアレンジレシピや、お菓子を使ったクリスマスツリーのつくり方など、同じようなチラシを一緒に送りたいなと思っています。
また、赤ちゃんがいる世帯には粉ミルクもお送りします。これは、私たちが実施したアンケートで、粉ミルクを薄めて赤ちゃんに飲ませている家庭が少なくないことが分かったからです。粉ミルクを薄めて飲ませていると赤ちゃんの発育が遅れるおそれがあり、大人になってからも悪影響が及ぶことがあると言われています。ですが、こうしたリスクを知らず、家計の苦しさから粉ミルクを薄めているご家庭があるのが現状です。そのため、この夏から粉ミルクの支援を開始しており、冬の食料支援でもお送りする予定です。
――食料支援をしたご家庭からは、どのような声が届いていますか?
川崎さん:
もともと、「冷凍品」と「常温品」に分けてお送りしていたのですが、冷凍品の送料が高騰していることもあり、この夏からは常温品だけにしました。そうしたことで一箱のボリュームが増え、「こんなに!」といった喜びの声がたくさん届いたのが印象的でした。いちばん上にお菓子を並べていたので、箱を開けたときにお子様が「わー!お菓子だ!」と喜んでくれたようで、そのような声をいただけたのは嬉しかったですね。
鈴木さん:
困窮世帯では、お母さんが食べるのを我慢しているのを知っているから、自分も「もうおなか一杯だよ」と嘘をついているお子様がたくさんいます。そのようなご家庭から「子どもと一緒におなか一杯、ご飯を食べられました!」といったメッセージをいただくと、本当に良かったなと思いますね。
青木さん:
「子どもが喜んでいる姿を見られて嬉しかった」というお母さんの声はもちろんですが、「お母さんが嬉しそうにしていて、僕も嬉しかった」といった、お子様からのメッセージも届きます。食料支援によって、親子のコミュニケーションが生まれる様子が目に浮かんで、本当に嬉しい気持ちになります。
今が大変すぎて今しか見えていない方々が、未来に目を向けられるような支援を。
――ファミリーサポートの「情報支援」について教えてください。
相沢さん:
給付金や補助金、奨学金などの情報を分かりやすく要約して、LINEやメールでお送りしています。困窮世帯の保護者の方は毎日忙しく、有益な情報があっても、それを入手するのが難しいのが現状です。そのため、たとえば「東京都から○万円が交付されます。申込期限が○日までなのでお忘れなく!」といった情報をお届けしています。また、生活の向上に役立つオンラインセミナーの情報もお送りしています。キッズドア主催のものだけでなく、他団体のセミナー情報もご案内しています。
――ファミリーサポートの「就労支援」について教えてください。
霜田さん: たとえば、数ヶ月にわたってオンラインで就労プログラムを提供し、就転職をサポートしたり (わたしみらいプロジェクト)、簿記3級などの資格取得を支援したり、協力企業による求人紹介セミナーを実施するなど、様々な取り組みをしています。
こうした就労支援を通して正規雇用につながる方もいますが、まだまだ多くはありません。正規雇用を目指す意欲が高い方がいる一方で、パート・アルバイトなど非正規雇用のままでいいと考えている方もいます。子育てとの両立など様々な事情がありますが、私たちのアンケートでは、ライフプラン、キャリアプランを立てられていないために、正規雇用に踏み出せていない方が多いことが分かってきました。今後はこうした方々に、将来必要になるお金に関するセミナーや、ライフプラン・キャリアプランを設計する方法を伝えるセミナーを提供して、未来に目を向けられるきっかけをつくっていきたいと思っています。
渥美さん:
困窮世帯の方は、今が大変すぎて、今しか見えていない方が少なくありません。1年先のことを考えられなければ、5年先、10年先を考えられるはずもありません。それゆえに、今月中に制服代が必要だとなると、その場しのぎで借金をしてしまいます。こうした状況を打開できるよう、「子どもが何歳になるとこのくらいの収入が必要になるから、今のうちから、こういう準備をしなければいけない」といったことを、セミナーを通して伝えていくのも私たちの役割だと考えています。
――ファミリーサポートの「体験活動支援」について教えてください。
相沢さん:
困窮世帯の方から、休みの日に子どもをどこかに連れていく余裕がないという声が多く届きます。体験活動支援では、お子様をスポーツイベントや自然体験、映画や演劇などに無料で招待しています。
誰もが体験活動に参加できるのが理想ですが、「この地域はイベントが少ない」「この年代向けの企画が少ない」というように、地域や年代によって体験できることに偏りがあります。今後は、こうした偏りを埋めるために、全国の企業の協力を募っていきたいと思っています。
渥美さん:
支援を必要とする方と、支援をしたい企業・団体をつなげるプラットフォームになることがキッズドアの使命です。そのため、困窮世帯を支援してくれる企業向けにも「情報支援」をしていきたいと考えています。今後は、「困窮世帯の方々がこういう体験活動を求めている、あるいはこういう物資や情報を求めている」ということを、セミナーなどで企業にどんどん発信していきたいですね。
相沢さん:
現在の体験活動は、「○月○日のスポーツ観戦のチケットがあります」というように、その都度、提供しています。こうした形だけでなく、サッカー教室やダンス教室、そろばん塾など、継続的な習い事も体験活動として提供していきたいなというのが、今後の展望の一つです。
あなたの子どものことを考えているのは、あなただけじゃない。
――ファミリーサポートへの登録をお考えの方へメッセージをお願いします。
渥美さん:
今の日本は、困窮世帯の方が声を上げにくくなっています。「助けてください」と言ったら、後ろ指を指されるのではないかという怖さもあると思います。特に地方は、家庭の経済状況が近所に広まりやすいので、困窮していても行政に助けを求めにくい方が多くいらっしゃいます。その点、キッズドアは民間ならではの支援をしています。たとえば、物資をお送りする際も普通の宅急便でお送りし、段ボールには何も書いていないので、近所の方に支援物資と気付かれる心配はありません。物資も情報も含め、多くのチャンスを提供できますので、ぜひファミリーサポートにご登録いただきたいです。
キッズドアには、「何のために生きているのか分からない」「頼れる人がいない」といった声がたくさん届いています。私たちは、ファミリーサポートを通して、困窮世帯の方々の精神的な孤立・孤独を防ぎたいと思っています。ご登録いただければ、様々な情報がLINEやメールで届きます。個別の相談をお受けするのは難しいですが、私たちとのコミュニケーションを通して、「一人じゃないんだ」という心強さを感じていただけると思います。
相沢さん:
ファミリーサポートは、企業から様々な物資やサービスをご提供いただき、困窮世帯の方々にお届けしています。遠慮なく「もらってほしい」というのが私たちの願いです。「恥ずかしい」とか「申し訳ない」とか、そんな気持ちになる必要はありません。
多くの方に受け取っていただくことで、「これだけの人が受け取っている = これだけのニーズがある」ということを示せるので、より企業から物資を集めやすくなります。また、受け取っていただいた方々の声を国に届けることで、政策や制度の見直しを促す「アドボカシー活動※」にもつながります。
※課題を解決するために声を上げ、社会や政策の変化を促すこと
渥美さん:
ファミリーサポートの登録者の声を集めてデータ化すれば、国に政策提言ができます。実際に、私たちが声を集め、何度も届けてきたこともあり、今年の秋から児童手当・児童扶養手当が拡充され、より手厚い支援を受けられるようになりました。ファミリーサポートに登録してくれる人が増えるほど、声が大きくなるんです。そうした意味でも、ぜひご登録いただきたいと思っています。
――支援をお考えの企業様へメッセージをお願いします。
相沢さん:
ファミリーサポートは、企業様・団体様からのご支援で事業が成り立っています。余っているもの、処分に困っているもの、捨てるにはもったいないものがあれば、ぜひ私たちにお譲りください。困窮世帯の方々に物資をお届けする流れもリアルにお見せできますし、ご家庭から届いた声をフィードバックすることもできます。SDGsの観点からもCSR活動としても、大変有意義な取り組みになると思います。 少しでも多くの企業様からお声がけをいただけると嬉しいです。