都心では、重度障害者が他の人の目に触れない「別社会」へと追いやられている。
──「でぃぐらぶ」とはどのような団体ですか?
柳さん:
でぃぐらぶは、「心のバリアフリー」を目指して活動している団体です。根底にあるのは、障害の有無にかかわらず、誰もがフラットに過ごせる地域づくりに貢献したいという思いです。
でぃぐらぶを立ち上げたきっかけは、都心には、重度障害のある方々が安心して住み続けられる場所がないという事実を知ったことです。都心では、特に重度障害のある方は、親が介護を断念すると、他の人と触れ合うことができないような僻地に追いやられているという実態があります。こうした分断を解消したいと考え、それぞれの領域のプロにお声がけして、団体を結成したのが2022年の9月です。
──具体的にどのような活動をしているのですか?
柳さん:
障害のある方々と触れ合う機会をつくることが、分断を解消する第一歩になると考えました。そのための取り組みの一つが、本日も開催する「ユニバーサル食堂」です。ユニバーサル食堂は、障害の有無にかかわらず、大人も子どもも、誰もが「まぜこぜ」になって食事を楽しみながら交流する場です。月に1回、「そんぽの家S木場公園」で開催しています。
最初にユニバーサル食堂をやろうと思ったとき、場所は高齢者施設がいいなと考えました。高齢者施設なら、重度障害のある方でも食べられるものを調理できますし、車椅子で入れるトイレもあります。そこで、最初にお声がけしたのが「そんぽの家」の深津さんでした。
SOMPOケア 深津さん:
SOMPOケアは、会社として「SOMPO流 子ども食堂」という子どもを対象とした地域交流の場を設けているのですが、私は、もっと地域に根ざした形にできないだろうかと考えていました。そんなときに、でぃぐらぶさんから「子ども食堂をもっと広げて、ユニバーサル食堂にしませんか?」といったご提案をいただきました。私自身、でぃぐらぶさんの「誰一人排除しない」という理念に深く共感し、一緒にユニバーサル食堂を立ち上げたという経緯があります。
ユニバーサル食堂は基本的に2部構成で、第1部は、ここに入居している高齢者の方と、障害者も含め外部から参加する方がごちゃまぜになって「お食事交流会」をします。第2部は「イベント交流会」という形で毎回ゲストをお招きして、工作をしたりゲームをしたりしています。今日は、学生団体の「コルナム」さんをお招きして、ゲームや工作などのイベントを通して交流会をおこないます。12月には、ゴスペルのコンサートを予定していますが、その他にも、フラダンスやキッズダンス、小学校の金管バンドなど、新たなイベントを模索して動いているところです。
「まぜこぜ」にすることで非日常が日常になり、誰もが暮らしやすい社会につながる。
──ユニバーサル食堂を通して、どのような変化を感じていますか?
柳さん:
初回のときは、入居者の方が障害のあるお子さんを見て、「なんで、あの子はあんなふうに踊ってるの?」というように、戸惑いの声も聞かれました。ですが、回を重ねるうちに、まったく普通に接するようになっていきました。90歳の方が障害者のお子さんに声をかけて一緒に踊っていたり、そんな光景が見られるようになったのは嬉しいことだなと思います。
私たち親子も、街中で入居者の方と偶然お会いすれば普通にお話をしています。この場限りの交流ではなく、ここから離れても自然に交流する関係ができているのは、ユニバーサル食堂を継続することで得られた一つの成果ではないでしょうか。
坂間さん:
障害者が生きづらさを抱えていたり、社会参加できなかったりするのは、障害者だけが集まるサービスの中にとどまり、サービス外との日常的な交流が少なくなっていることが一つの要因になっていると思います。
私の息子も障害を持っているのですが、ユニバーサル食堂に参加する彼を見ていると、普段会わない人たちと触れ合うことで、すごく刺激を受けているのが分かります。このような場に参加することで、自分の中の何かが呼び覚まされると言うか、「生きる意欲」のようなものが刺激されているように感じます。障害者だけでなく、どんな人にとっても普段と違った世界を知る機会はとても大事で、それができるのがユニバーサル食堂の価値だと思います。
──その他の活動についても教えていただけますか?
坂間さん:
たとえば、「まぜこぜタネマップ」という地図をつくっています。これは、障害者にやさしい江東区の店舗・施設をマッピングしたものです。設備がバリアフリーであるというハード面だけでなく、店主の方が「障害者の方もお気軽にどうぞ」というハートを持っている。つまり、心のバリアフリーが進んでいる店舗・施設を掲載しています。
柳さん:
障害者の方は、「うるさいな」など、心無い言葉を浴びせられたりして、外出を控えるようになってしまう方もいます。我々はこのマップを拡充することで、障害者の方が安心して行ける場所を広げていきたいと思っています。
坂間さん:
まぜこぜタネマップの狙いは、「障害者と健常者」というように分断するのではなく、文字どおり「まぜこぜ」にすることです。
「障害者とどのように接していいのか分からない」という方は、「今まで出会ったことがないから分からない」という方がほとんどだと思います。相手のことを知らないと、どうしても距離をとってしまいます。ですが、普段から障害者が隣にいたらどうでしょうか。まぜこぜタネマップを通して、一般の方が障害者の方と出会う回数、場面が多くなれば、それが当たり前の光景になっていくはずです。
我々が大切にしているのが、「非日常化から日常化」という考え方です。まぜこぜにすることで、非日常が日常になり、誰もが暮らしやすい社会につながると思っています。
柳さん:
我々は「点から面へ」という言葉もよく使っています。まぜこぜタネマップはその分かりやすい例であり、マップに載る店舗・施設が増えていけば、点から面になっていきます。行き着く先には、障害者とか健常者とか関係なく、誰もがあるがままで気楽に過ごせる社会があるはずです。
世代や立場、障害の有無などの垣根を越えて、多様な人々が交流する場を。
──今後の展望を教えてください。
坂間さん:
我々は今、地域共生をテーマとした「まぜこぜハウス」という居場所づくりを進めています。約3,000平米、9階建ての建物で、竣工は2028年の予定です。
行政の福祉サービスは、子どもは子ども、高齢者は高齢者、障害者は障害者というように縦割りになっています。こうした福祉サービスを一つの建物のなかで提供するのが、まぜこぜハウスです。世代や立場、障害の有無など様々な垣根を越えて、多様な人々が出会い、交流する場にしたいと思っています。
まぜこぜハウスには、「住む」「働く」「学ぶ」などの生活があり、それぞれに関わる福祉サービスが提供されます。
「住む」で言えば、「重度障害者グループホーム」が整備されます。加えて、外国人や母子家庭の方、社会的養護の枠から外れた18歳以上の方など、住居を確保するのが難しい方向けの賃貸住宅も備える予定です。障害児を支援する「児童発達支援」や「放課後等デイサービス」の事業所も入ります。「働く」で言えば、障害者の方に就労機会を提供する「就労継続支援B型」という事業所が入ります。「学ぶ」で言えば、障害児の支援サービスと一般的な学童保育を同じフロアに設けることで、子どもたちがインクルーシブに交わる場をつくる予定です。
このように、まぜこぜハウスは福祉サービスがまとまったような場所ですが、福祉サービスだけ囲い込むことを目的としているわけではありません。我々がもっとも重視しているのは、一般の方に入ってきてもらうことで、新しい出会いや交流を生み出すことです。地域の方が気軽に訪れ、たとえば、中にあるカフェで障害のない方が障害児と交流する。そうやって、非日常を日常にしていける場づくりを目指しています。
柳さん:
坂間さんから、子どもたちがインクルーシブに交わるという話がありましたが、小さい頃から多様な人と接することはとても大事です。私の5歳の息子も、障害福祉団体と一緒に旅行をしたりしているのですが、彼からすると、障害の有無なんてまったく気にしていなくて、偏見も何もなく、みんな普通に「優しいお友達」なんですよね。
坂間さん:
分断されてきたがゆえに、障害者に苦手意識や偏見を持ってしまうというのは、大いにあることです。日本の小学校には特別支援学級があり、クラスで分断されていますよね。中学・高校になると学校そのものが分断され、特別支援学校になります。そして、その後は「障害枠」とも言えるような形で就労をします。今でこそ、障害者雇用率の義務化という話もありますが、分断がなければ「義務化」という言葉にはならなかったはずです。こうして深く根付いている「分断」を取り除いていくことが、まぜこぜハウスの重要な役割だと思っています。
──最後にメッセージをお願いします。
柳さん:
障害者に優しいということは、誰にでも優しくなることでもあると思っています。そんな社会づくりを、それぞれの場、それぞれの地域でしていただければ嬉しいです。
誰だって、病気になったり、精神疾患になったり、事故に遭ったりすれば、障害者になる可能性がありますよね。そうなったとしても、社会から追い出されないようにしなければいけません。現状は、少なくとも都心部では、重度の障害を持った途端、他の人の目に触れない別の社会に追いやられてしまいます。ですが、人間の命の価値は同じです。障害があっても認められ、受け入れられる社会の一員でありたいですし、それは、私たちの一人ひとりが意識すればできると思います。
坂間さん:
見えていることからどう感じ、どうアクションするかが大事だと思います。ですが、自分に意識がないと、「見ているつもりでも見えていないこと」がたくさんあります。
でぃぐらぶの活動を通して、多くの人に、障害者のことが、あるいはそこにある分断が見えるようになってほしいなと思います。見えるようになれば、関心を持ち、察することや気持ちを汲むことができるようになります。こうした積み重ねで、心のバリアフリー化が進み、社会は少しずつ変わっていくはずです。まずは自分にいちばん近いところに目を向けて、しっかり見てもらいたいなと思います。
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