まだ着られる衣類をリユースし、その売却益で世の中を良くする活動を支援する。
──洋服ポストの活動内容と発足の経緯を教えてください。
洋服ポストの活動には2つの軸があります。一つは、日本で集めた古着を海外で「リユース」すること。そしてもう一つは、その古着の売却益を寄付することでさまざまな活動を「支援」することです。
洋服ポストが活動をスタートしたのは2011年の6月です。最初は港区の「エコプラザ」という公共施設の一つの事業として始まりました。当時、僕はエコプラザのスタッフだったのですが、老舗の古着会社である原宿シカゴさんとの出会いがきっかけでした。
原宿シカゴさんは、自社で商品にならなかった古着や、国内各地の「集団回収」などで集められた古着を買い取って、海外に輸出する事業をされていました。原宿シカゴさんにお話を伺って大きな可能性を感じたのは、すごくしっかりした古着流通の仕組みを構築されていたことです。その仕組みを使わせていただくことで、誰もが泣く泣く手放している衣類を世の中のために役立てることができそうだと感じたんですね。
当時、僕はソーシャルデザインの視点から「みんなが気軽に参加できるような社会を良くする仕組みをつくれないだろうか?」というようなことを考えていました。だから、原宿シカゴさんのお話を伺ったとき、さまざまな社会課題を解決するために頑張っている団体があるんだから、そういう団体に衣類の売却益を寄付することで活動を応援できるんじゃないかって思ったんです。こうして「衣類のリユース&活動支援」という2本柱で洋服ポストが生まれました。
──洋服ポストというネーミングには、どんな思いが込められていますか?
洋服ポストの目的は、ただ洋服を集めることじゃなくて、集めた洋服をちゃんと使ってもらうこと。そして、売却益を使って社会を良くする活動を支援していくこと。つまり、洋服にも届け先があるし、売却益にも届け先があるってことです。
「この服、着なくなったけど、誰かに使ってほしいな」とか、「この活動にお金を届けてほしいな」とか、そういう気持ちで ”ポスト” に手紙を投函するのと同じように洋服を持ってきてくれたら嬉しいなと思って「洋服ポスト」というネーミングにしました。今回取材していただいたアークヒルズもそうですが、各地にある洋服ポストの窓口はみなさんから資源をお預かりして、必要な人のところに届ける ”経由地” みたいなイメージですね。
災害の復興支援、環境保全、街づくりなど、さまざまな活動を支援。
──洋服ポストに集まった衣類は、どんな場所でリユースされていますか?
衣類のリユース先は、アジア・中東・アフリカの15の国です。どの国でも日本の古着は好評で、結構人気があるようですね。アジアの人は体型も日本人に近いので、サイズ感がちょうどいいそうなんですよ。
あと、日本の古着って他の国の古着に比べるとすごくきれいらしいんです。そこはやはり、丁寧に着て、丁寧に保管する日本人の几帳面さがあるのかなと。実際に会場で衣類をお預かりしていても、本当に状態の良いものが多いんですよ。
──衣類の売却益でどんな活動を支援していますか?
支援している活動はさまざまですが、大きく分けると4つあります。まず「自然災害の復興支援活動」です。実は、洋服ポストの企画が固まったのって、2011年3月11日の午後2時くらいだったんです。東日本大震災の直前だったのは偶然でしかありませんが、あの揺れを経験したら、まったく関係ないってことにはなりません。3.11の年に生まれた活動だからこそ、自然災害の復興支援というのは一つの大きな柱になっています。
次に、沖縄のサンゴ礁保全活動など「環境保全活動」への支援があります。3つ目は、障害者支援施設や養護学校など「福祉活動」への支援。4つ目は、たとえば子育てカフェの立ち上げや地域のコミュニティづくりなどの「街づくり活動」への支援ですね。
「もっと世の中を良くしたい」という意識が根付いてきた。
──洋服ポストの活動を通して気付いたことはありますか?
福祉施設で洋服ポストを開催して、衣類の売却益をその福祉施設の運営資金として活用するケースもあるのですが、そこで気付いたことがありました。
福祉施設って、みなさんのお住まいの近くにもあると思いますが、実際に足を運ぶ機会ってほとんどありませんよね。物理的な距離は近くても、心理的な距離は決して近くない。そういう状況があるなか、福祉施設で洋服ポストを開催してみたら、地域の方が福祉施設に足を運ぶきっかけができたんですね。施設を利用する方がスタッフもされたりしていて、施設利用者の方と地域の方が直接交流する機会にもなっています。こういう役割も果たせるんだっていうのは、やってみて初めて気付いたことでした。福祉施設に限らず、やはり分断されているもの同士の接点をつくっていくことは大事だなと思います。
──洋服ポストの活動を続けてきて、変化を感じることはありますか?
おかげさまでご好評をいただき、衣類もかなり集まるようになりました。2013年にNPO化してから、いろんな場所に洋服ポストを開設するようになり、今は都内を中心に14箇所の洋服ポストがあります(定期・不定期合わせ)。
認知の拡大とともに変化を感じるのは、企業さんや団体さんから声をかけていただくことが増えたことです。「CSR活動として洋服ポストの活動をしたいんだけど」っていうご相談もよくいただきますし、コラボ事業のような形で活動することも増えてきました。
僕個人の印象としては、ひと昔前のCSRブームの頃は「やらなきゃ」っていう感じの取り組みが多かった気がしますが、今は「世の中のためになること、もっとやりたいよね」っていうように、明らかに意識が変わってきているのを感じています。そういう社会の流れもあって、お声がけいただく機会が増えているんじゃないですかね。
──具体的に、どんなコラボ活動をしていますか?
たとえば、ファッションブランドのバナナ・リパブリックさんとは、2015年からコラボさせていただいているのですが、毎年、春と秋に全国のバナナ・リパブリックさんの店舗で、使わなくなった衣類を集めるキャンペーンをおこなっています。
今年は、東京マラソンさんとのコラボもおこないました。メインの取り組みは、東京マラソン当日にスタート地点付近などランナー限定のエリアに洋服ポストのボックスを配置して、そこにご家庭で眠らせていたウェアやスタート直前まで着ていた上着などを投函してもらうというものです。基本的に洋服ポストでは未洗濯の衣類は受け取りできないのですが、この取り組みでは後日ボランティアの方々の手でポケットのチェックをしていただいたり、クリーニングの工程を組み入れたりすることで、直前まで着ていた衣類の受け取りを例外的にOKにすることができました。他にも、マラソン当日だけでなく、東京マラソンに関連するイベントや施設で洋服ポストを実施していただいたりもしましたね。
企業・団体と積極的にコラボして、まだ見ぬ可能性を見いだしたい。
──使わなくなった衣類をお持ちの方へメッセージをお願いします。
洋服ポストは、眠っている衣類を社会のために役立てる活動をしていますが、洋服ポストを “エクスキューズ” にしてほしくないと思っています。「大量生産・大量消費・大量廃棄」でも洋服ポストがあるからいいやみたいな感じで考えられるのは、ちょっと違うかなと。
ファッションを楽しむこと自体はとても良いことですが、必要以上に作って結局ムダとして捨てられるものが、あまりにも多いんじゃないか・・・ということは常々、感じています。もちろん、体型が変わったり趣味・嗜好が変わったりして着なくなった洋服はどんどん洋服ポストを活用してもらいたいのですが、「着るかどうか分からないけど買っちゃう」みたいなことは減らしてほしいなと思います。「必要な服を必要なだけ買う」とか、「気に入った服を大事に使っていく」とか、そういうことを心に留めておいてほしいですね。
──今後の洋服ポストについて教えてください。
洋服ポストは小さなNPOなので、自分たちの力だけでは限界があります。今後は、企業さんや団体さんとの共同事業をもっと増やしながら、新しい可能性にチャレンジしていきたいですね。
洋服ポストの仕組みってすごくシンプルなので、いろんな取り組みにハマりやすいと思っています。いろんな事業者さんとご一緒させていただくことで、「この仕組みって、こういう活用の仕方があったんだ」っていう、まだ見ぬ可能性を見いだしていきたいなと。それが、一緒に取り組む方々の事業の可能性や、社会の可能性を広げることにもつながっていけたらと思っています。
今、多くの事業者さんからお声がけいただくことが、洋服ポストの推進力になっています。だから、これからもどんどんご相談いただけたら嬉しいですね。「ちょっと無理かな・・・」っていうご相談でも大歓迎です。結構、柔軟に対応できると思いますよ(笑)。
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