創設者がTeach For Americaに感銘を受け、世界50ヵ国で展開するTeach For Allの加盟団体を設立
――Teach For Japanの立ち上げの経緯をおしえてください。
Teach For Japan(以下、TFJ)は、世界50ヵ国で展開している教育系非営利組織「Teach For All」のグローバル・ネットワークに加盟しているNPO団体です。2008年に創設者である松田悠介が、アメリカ留学中にTeach For Americaに出会い、教育格差の是正への取り組みに感銘を受け、日本で実現しようと決意しました。2010年から日本独自のプログラム構築などの準備を始め、放課後や長期休暇中に学習の機会を創出する学習支援事業をスタートさせました。
その後、公立学校に2年間フェロー(教師)を配置するフェローシップ・プログラムを実現しようとしましたが、日本では教師として働くには教員免許を取得していることが一般的であり、特別免許状や臨時免許状を活用したフェローシップ・プログラムについて理解を得て実現することは簡単ではありませんでした。
そんな中で、2013年にフェローシップ・プログラムの第1期をスタートし、2019年度で7年目になり、フェローシップ・プログラムへの参加者は計66名となりました。私自身もフェローシップ・プログラムの第3期生として、2015~2017年まで奈良県の小学校で活動しました。プログラムを終えた後の2017年からは札幌新陽高校にて校長の右腕として学校運営に取り組んでいました。そして、2019年4月からはCEOとしてTFJの経営に携わっています。
2年間、教師として公立小学校・中学校で働くフェローシップ・プログラム
――フェローシップ・プログラムの取り組みをおしえてください。
フェローシップ・プログラムとは、TFJが独自に選考したフェローが、研修を受けた上で2年間、学校で教師として働く取り組みです。フェローの職務内容は一般の教師と同じで、担当教科を教えますし、担任を受け持ったり部活動の顧問になったりすることもあります。
フェローたちは社会課題に当事者意識を持ち、教育を通じて社会課題の解決に取り組む強い想いを持っています。そのフェロー達の能力や個性を最大限に教育現場で発揮するために、TFJでは事前に最長9ヶ月の研修を行っています。TFJの研修は、Teach For Allの加盟団体の統一原則を活用したリーダーシップ研修など、子どもの学習効果の最大化と日本の教育課題の解決につながる内容をめざしています。
子どもたちにとって大切なのは、どんなロールモデルと出会い原体験を得るのかです。フェローが2年間子どもたちと直接かかわることで、学力と学習意欲の向上をめざすとともに、自ら考え自分の将来を切り拓いていけるように関わります。真剣に子どもたちと向き合いムーヴメントを起こそうとするフェローの姿は、子どもたちの心にも変化をもたらし、人生を変えるきっかけになることもあるでしょう。フェローから影響を受けた子どもたちが成長し、これからのよりよい社会を創る担い手となってくれたらうれしいですね。
教育にかかわる社会課題を解決できる人材を育成
――2年間の教師経験はフェローにどのような影響をもたらしますか。
フェローシップ・プログラムの目的は、単に子どもたちによりよい教育を提供するだけではありません。さまざまな社会課題を解決する人材を育成するという目的もあります。
フェローたちは2年間、教育現場で子どもたちと真剣に向き合う中で、問題解決能力やチェンジメーカーとしての資質能力などが磨かれ成長していきます。また、現場にいるからこそ子どもを取り巻く社会課題に当事者意識を持つこともできます。
フェローシップ・プログラム修了後にどんなキャリアを選択するかは自由ですが、フェローたちは皆、プログラムの経験を通して知った社会課題の解決に向けて動き出します。教師を続けて現場から新たな学校文化の創出をめざす人もいれば、NPOや一般企業に就職するなどして他分野から教育改革にアプローチする人もいます。現場経験のあるチェンジメーカーとして多様な分野で働きかけ、連携することで、教育改革の推進力は高まるのです。
多くの自治体や学校がTeach For Japanのミッションに共感
――どのような自治体・学校がフェローシップ・プログラムを導入していますか。
これまでに連携した自治体は8市2町、フェローを配置した学校数は62校です。受け入れてくださった自治体・学校は、TFJの「すべての子どもたちが素晴らしい教育を受けられる世界」を実現するというビジョンに共感し、教育改革の推進とさまざまな社会課題を解決するチェンジメーカーの育成に向けて協働していただいています。
自治体によって抱えている課題はさまざまですが、例えば「教師の確保」は多くの自治体の課題です。大卒者の一般企業への就職倍率の平均は約7倍と言われますが、教員採用試験の倍率は4倍。自治体によっては1.3倍のところもあり、教師や学校現場をめざす人が減っています。教師の数が足りなければ子どもに目が行き届かず、個別対応すべきケースにも手が回りませんし、現場での新しいチャレンジは生まれません。そのような現状から、不都合を被るのは子どもたちであり、教育格差が生まれていっているのです。
こうした学校現場の課題は、日々さまざまな役割を担う現場の教師だけでは手に負えません。TFJは学校・行政・地域・企業といったさまざまな関係者を巻き込んでいくことで、学校現場のフェローだけでなく、先生方をサポートすることができるのではないかと思います。
例えば、教育現場に新たなシステムを導入する際に、システムを扱う企業は教育現場を知りません。そんな時にはTFJが企業と学校との橋渡し役となり、教育現場に適したシステム運用ができるよう働きかけていくことが可能です。
Teach For Japanのビジョンや活動を広く発信したい
――最近始めた取り組みについて教えてください。
全国で教師をめざす人が少ないという現状の中、フェローシップ・プログラムは原則2年間のプログラムとなっており、2年後にキャリアシフトのタイミングがあります。それについて、プログラムへ参加するハードルが高いと考える人もいます。また、一般企業からの転職ですと給与が下がることもあるでしょう。それをリスクとは捉えずに、目的意識を持ってTFJのビジョンに共感し、フェローシップ・プログラムに参加してくれる人材を見つけたいです。
そのために、より多くの人にフェローシップ・プログラムの可能性や、TFJのビジョンを伝える機会を多く設けたいと思っています。イベントや講演会などで私自身の経験を話していくとともに、フェローシップ・プログラム修了生にも協力を仰ぎ、経験者だからこそ語れるプログラムの意義や想いを発信していきます。また、TFJを支えてくれているスタッフにも、プログラムの価値を信じ続けてもらえるように、日頃からビジョンを示し続けることが重要だと思っています。
フェローシップ・プログラムは7年目に入りますが、世間での認知がまだまだ低いのが現状です。臨時免許・特別免許の制度も広く知られているわけではないので、多くの人に認知されるようアクションを起こしていきます。
ただ、これまでの活動の成果として、最近自治体からお問い合わせいただくことが増えてきています。これは、プログラム修了生が50名を超え、彼らがさまざまな分野で教育改革のアプローチをしてくれたおかげです。
すべての子どもたちが素晴らしい教育を受けられる世界の実現をめざして
――今後のビジョンとメッセージをお願いします。
日本は今学校教育の大きな転換期を迎えており、学習指導要領の改訂や教育システムの改善が行われています。そこで、TFJの取り組みが一つの形となり教員の養成・採用・研修に大きな変化を生み、現在の子どもや学校現場を取り巻く多くの課題が解決できるように取り組んでいきます。
また、これからの10年でフェローシップ・プログラムへの参加者を大幅に増やしたいと思います。新規採用教員の数は年間15,000人ほどであり、これから減少傾向にありますが、フェローシップ・プログラムから現場に出る教師を年間で新規採用教員の7%ぐらいにしたいです。
Teach For Allは、2040年までには世界のあらゆる地域において、すべての子どもたちが素晴らしい教育を受けられる世界の実現をめざしています。すなわち、2040年にはTeach For AllもTeach For Japanも存在する必要のない世界になっているということです。ソーシャルセクターで活動する覚悟として、「社会課題に取り組む」だけでなく、「社会課題を解決する」ことに全力を尽くします。
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