「7人に1人の子どもが貧困」という貧困の連鎖を断ち切って、 すべての子どもが夢や希望を持てる社会を。

理事長渡辺さんとサニエル

キッズドアとは?

キッズドアは、子どもの学びを支援して、貧困による教育格差の是正に取り組むNPO法人です。教育支援事業では、低所得世帯の小・中学生、高校生を対象に無料学習会を実施しており、2018年度は、東京・東北を中心とした65の拠点で2,000人近くの子どもたちが支援を受けました。 今回は、ぼくサニエルが理事長の渡辺さんにお話を伺うとともに、英語学習会「English Drive」の様子を見学させていただきました。

キッズドア理事長の渡辺さん

経済的に貧しい子どもたちに無料で勉強を教える「教育支援」が中心。

キッズドア理事長の渡辺さん。

キッズドア理事長の渡辺さん。

──キッズドアの活動内容について教えてください。

キッズドアは、「すべての子どもが夢や希望を持てる社会を」というビジョンを掲げて、経済的に貧しいご家庭のお子さんたちの支援をしています。

私たちは「貧困の連鎖」と呼んでいるのですが、日本では、親が貧困に陥るとその子どもも貧困から脱するのが難しいという現状があります。諸外国に比べ日本は子育てにお金がかかるので、収入が少ないご家庭は、どうしても教育にまでお金が回りません。そのため、子どもが進学をあきらめざるを得なかったり、希望の職業に就くことができなかったりして、次世代にも貧困が連鎖してしまうのです。

このような貧困の連鎖を断ち切るために、キッズドアでは「教育支援」をおこなっています。簡単に言えば、経済的に貧しい子どもたちに無料で勉強を教える取り組みですね。また、最近では勉強を教えるだけでなく、無料で食事を出すなどして貧困の子どもたちの居場所をつくる「生活支援」の取り組みもしています。

 

──キッズドアを立ち上げたきっかけを教えてください。

以前、家族で1年間イギリスで暮らした経験があるのですが、そのときに、教育や社会の仕組みが日本と全然違うことに驚きました。子どもを現地の小学校に通わせていたのですが、学校から集金されたことは一度もありませんでした。イギリスも経済格差が大きい国ですが、ボランティアや寄付、民間企業が学校をサポートする仕組みなどが確立されているので、家庭の経済格差によって子どもの教育にそれほど差がつくことはありませんでした。

一方、子どもの教育にお金がかかる日本では、家庭の経済格差がそのまま子どもの教育格差につながってしまいます。また、経済格差が原因になって、いじめや不登校、引きこもりなどの問題に発展することもあります。このような問題に直面している貧困層の子どもたちを支援したいという思いから、キッズドアの設立に至りました。

「子どもの7人に1人が貧困」という日本の現実

日本の貧困率をあらわすグラフ

「日本には7人に1人、貧困の子どもがいる」ということを知っている日本人はまだまだ少ない。

──日本における貧困の現状を教えてください。

日本の子どもの貧困率は13.9%で、7人に1人の子が貧困という調査結果が出ています。日本における貧困家庭の多くは、いわゆるシングルマザーのご家庭です。日本のひとり親家庭の子どもの貧困率は50.8%ですが、これはOECD加盟国のなかで最悪の数字になっています。もう一つ特徴的なのは、実は日本のシングルマザーの就労率は80%を越えていて、これも世界トップなんです。

どういうことかと言うと、日本のシングルマザーはいちばん働いているのにいちばん貧困ということ。私たちは「世界一のワーキングプア」と呼んでいるのですが、これが日本の貧困の現状です。

 

──そもそも貧困は、どのように測るのでしょうか?

先進国のなかにも貧困は存在していて、それを測るのが「相対的貧困率」と言われる指標です。簡単に言うと、その国の国民の所得の中央値をとって、中央値の半分未満の所得で暮らす人たちを貧困とする考え方です。

つまり、標準的な所得の半分以下で暮らしている家庭のことで、今の日本だと「保護者1人+子ども1人で年間177万円未満」で暮らしている家庭が貧困になります。ちなみに、3人世帯では217万円未満、4人世帯では250万円未満になります。

キッズドアに来ている子たちは着ている服も普通ですし、スマホも持っています。見た目からは貧困であることは分かりません。でも、よくよく聞いてみると、「外食に行ったことがない」「月末は食卓にもやしが出る割合が高くなる」「今日のお昼代は100円」など、家庭のなかに一歩入ると、ものすごく苦労していることが分かります。

 

──日本の貧困の原因をどのように考えていますか?

一つは、従来からの雇用環境に問題があると思っています。日本の女性はいわゆる「M字型就労」で、結婚・出産を機に仕事を辞めて数年後に復職するのが一般的です。ただ、復職するときはなかなか希望どおりの就業ができず、パートや派遣で働く女性が多くなりますが、非正規だと長時間・長期間働いても年収が増えていきません。離婚した女性が一人で子育てするとなると、どうしても社会的な構造のなかで貧困に陥ってしまいがちなんです。

もう一つ大きいのは、諸外国に比べて子育てに関する支援が少ないことです。いわゆる「社会福祉費」が高齢者に偏っていて、子どもに使われるお金はすごく少ないんです。児童手当はありますが、とても十分な金額とは言えません。

ボランティアの大人と話すことで、子どもたちの世界はぐんと広がる。

English Driveの様子

この日の英語教室「English Drive」は11人の中学生が参加。生徒とボランティアはほぼマンツーマン。

──キッズドアにはどんな学習会がありますか?

今は小・中学生から高校生まで見ていますが、当初は中学3年生向けに高校受験のサポートをする「タダゼミ」という学習会しかありませんでした。以来、高校進学率100%を達成できていますが、続けていくなかで、低所得家庭の子たちは高校に進んでも中退しがちだということが分かったんです。

児童手当などの措置が中学生までで終わってしまうこともあり、困窮家庭の子たちは高校に入るとアルバイトを始めます。ですが、「夜遅くまでバイト → 勉強できない → 赤点で進級できない → 退学」という悪循環をたどる子が少なくありません。なかには、バイトで定期代を稼いでいる子もいて、定期が買えなくて学校に通えなくなってしまうケースもありました。このような子を減らそうと、高校生世代の支援にも力を入れるようになりました。

その他、時代の流れとともに新たな課題が見えてきたので、英語を教える「English Drive」やプログラミングを教える「IT Drive」などの学習会も設け、足りない領域をカバーしながら運営しています。

 

──学習会で講師をするのはボランティアさんですか?

はい、キッズドアの学習会はボランティアさんによって支えられています。ボランティアさんのほとんどは、社会人と大学生です。社会人の方は、少し仕事に余力が出てきたので社会還元をしたいという方が多いですね。「子どもを教えに来たのに、子どもから教わることばかり」と話してくれる方も多く、ボランティアさんもやりがいを持って学習会に来てくれます。

 

──学習会の良さはどんなところですか?

母子家庭の子って、普段お母さんの姿しか見ていないからか、「仕事って大変でつまらない・・・」というように、仕事に対して良いイメージを持っていない子が多いんです。だから、自分も働きたくないし、大人になりたくないし、夢も持てない。

でも、キッズドアの学習会ではお母さん以外の大人と接します。毎回、違うボランティアさんと話をするなかで、「こういう仕事もあるんだ」とか、「このおじさん、実はすごい人なんだ」とか、いろんな発見があって世界が広がっていくんです。

大人になることがつまらないと思っていた子が「そうでもないかも」って思えたり、自分はどうせ無理だとあきらめていた子が「自分にもできるかも」って思えたり、勉強嫌いだった子が「勉強して、将来こんな仕事をしてみたい」って思えたり。いろんな大人とのコミュニケーションを通して、世界が広がったり、可能性を感じられたりするのが学習会の良いところですね。

少子化が進む日本では、一人ひとりの子どもが社会にとってすごく大事。

「子どもの貧困は自己責任ではない。まずは日本の貧困の現状を知ってほしい」という渡辺さん。

「子どもの貧困は自己責任ではない。まずは日本の貧困の現状を知ってほしい」という渡辺さん。

──今後のビジョンを教えてください。

キッズドアを立ち上げたときは、誰も、日本に貧困の子どもがいるなんて知りませんでした。かねてから「1億総中流社会」と言われてきて、日本には貧困なんて存在しないと思われていたんです。ですが、この10年で子どもの貧困が重要な課題として認識されてきて、高等教育無償化など国の政策・制度も整いつつあります。昔と違って、お金がなくても大学に行ったり留学したりできる仕組みもできています。

これまで、私たちはマイナスにいる子どもたちをゼロに引き上げる活動に主眼に置いてきましたが、今後は、ゼロからプラスに進むための機会を提供していきたいと思っています。子どもたちが自由に好きな人生を選択できるような、夢を持ってその夢を叶えられるような、そんな支援をしていきたいですね。

 

──キッズドアの活動に興味のある方へメッセージをお願いします。

まだまだ、日本に子どもの貧困があるということを知らない方が多くいます。一方で、知っていても「親がだらしないのでは?」とか、「子どもが怠けているのでは?」とか、貧困の自己責任論みたいなバッシングも存在します。でも、全然そんなことはなくて、みなさん大変な状況のなかで頑張っているんです。なので、まずは日本の貧困の背景に目を向けて、現状を知ってもらいたいなと思います。

残念なことですが、日本は子どもにやさしくない国です。でも、少子化が進む日本では、一人ひとりの子どもが社会にとってすごく大事な存在です。だから、子育てをする親御さんや子どもたちをあたたかい目で見てもらいたいですし、できることがあればサポートしてほしいと思います。キッズドアもそうですが、子ども食堂とかいろんなボランティアがありますので、できることから始めてもらえたら嬉しいですね。

ボランティアさんにお話を伺いました!

ボランティアの小林さん

キッズドアでボランティアを始めて4年目になる小林さん。普段は、外資の金融IT系企業(DTCCジャパン)で働いている。

──キッズドアでボランティアを始めたきっかけを教えてください。

毎年、金融サービスや関連事業を展開する会社が集まっておこなう「FITチャリティ・ラン」というボランティアのイベントがあるのですが、そのイベントの運営に一部関わっていたときにキッズドアさんを知ったのがきっかけです。

子どもに英語を教えるボランティアなら自分の得意分野を活かせるかなと思って、「English Drive」をお手伝いさせてもらうようになりました。会社もわりと近いので、週に2回、仕事帰りに高校生クラスと中学生クラスを見ています。

 

──キッズドアのボランティアに参加してみていかがですか?

ちょうど私がボランティアを始めたときに中学1年だった子が、今、高校1年になっていますし、高校1年だった子が、この春に卒業して大学などに進学していきました。3年間で成長した姿を見るのはやっぱり嬉しいですし、子どもの成長に携われた達成感はありますね。

キッズドアに関わるまで、私は「7人に1人の子どもが貧困」っていう状況が日本にあることを知りませんでした。でも、子どものうちにきちんとした教育を受けることができれば、言い方は悪いですが、親が貧しくても自分の力で貧困から脱することができます。そういった意味でも、困窮家庭の子どもたちの教育に携わることができるのは、すごく有意義なことだと感じています。

 

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ご支援、その他のお問合わせはこちらで受付けております
NPO法人 キッズドア
ホームページ:http://www.kidsdoor.net/
電話番号:03-5244-9990
住所:東京都中央区新川2-1-11 八重洲第1パークビル7階

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