路上で暮らす子どもたちに、大人になるための準備を。
国境なき子どもたちの概要を教えてください。
国境なき子どもたちは、国境に関係なく、貧困や紛争、災害などで困難な状況に置かれている世界の子どもたちを支援している認定NPO法人です。支援内容は、教育の提供を中心としています。教育と言っても、学力の向上だけではありません。私たちは、音楽や美術、図工やダンスなどの活動や職業訓練なども含めて教育と考えており、教育を通して健全な子どもの育成を目指しています。
遊びの提供も、私たちの活動の特徴だと言えます。子どもが成長していく過程で楽しい時間を過ごすことはすごく大事なので、積極的に様々な遊びを提供しています。現在は、カンボジア、フィリピン、バングラデシュ、パキスタンなど、日本も含め7ヶ国で活動しています。
団体発足の経緯を教えてください。
国境なき子どもたちは、「国境なき医師団日本」の教育プロジェクトとして派生し、1997年に任意団体として発足しました。
当時、国境なき医師団の取材活動のなかで、15歳以上の青少年が支援を受けにくく、社会に放り出されがちであることが分かりました。もちろん、もっと年齢が低くても困窮している子はたくさんいますが、小さい子どもたちは様々な団体・施設などが優先的に保護・支援をしています。ただ、その子たちが何歳になるまで支援を続けるのか?というのは難しい問題で、だいたい15歳くらいになると保護施設を出なければならなくなってしまいます。施設を出た子どもたちがどこに行くかというと、また路上に戻って物乞いを始めたり、非行グループに参加したりします。やはり、15歳で自立するって難しいことなんです。
私たちは、そういった子どもたちに教育を提供し、もう少しだけ自分の将来を考える時間を与えたいと考えました。とはいえ、国境なき医師団は医療を提供する団体なので、教育プロジェクトはできません。そこで新たに「国境なき子どもたち」という団体を立ち上げたのが、大まかな経緯です。
子どもたちが心に負った傷を癒やしていく。
15歳以上の青少年を支援するために発足したわけですね。
そうですね、15歳以上の青少年の自立支援は国境なき子どもたちの軸になる活動であり、そのために「若者の家」という自立支援施設を設けています。若者の家は、子どもたちが共同生活を送る施設のような場所です。ここでは、ストリートチルドレンや人身売買の被害に遭った子どもたちに教育や職業訓練の機会を提供することで、彼らの自立を支援しています。
ストリートチルドレンの問題は非常に根深いですが、直接的な原因になっているのは貧困や両親の不仲がほとんどです。たとえば両親が離婚・再婚して、新しい父親がやってきたり、血のつながってない兄弟ができたりすると、そこから虐待や育児放棄が始まるケースは少なくありません。その結果、居場所がなくなった子は家を飛び出して路上で生活するようになるんです。彼らにとっては路上のほうが自由ですし、誰にも文句を言われないですからね。
ストリートチルドレンの自立支援ではどんなことが重要ですか?
「若者の家ではご飯も食べられるし、シャワーも浴びられるからおいで」と言っても、彼らは来てくれません。「家」そのものにトラウマを持っているので、そういう施設に行くことを嫌がります。また、過去に他の施設でスタッフにいじめられたり、虐待されたりした経験がある子もいます。「怖い」「信用できない」と思うのは無理もありません。
ですから、まずは時間をかけて信頼関係を築いていくことが重要です。現地のスタッフは路上に何度も通い、子どもたちと顔見知りになって話をします。そうやって、ある程度の信頼関係ができてはじめて若者の家に来てくれるようになります。ですが、若者の家に来ても集団生活のルールに馴染めない子もいますし、シンナーを吸えないから嫌だとか、麻薬が欲しいから路上に行きたいという子もいます。それでもまた何度も訪問して、話をして、もう一度来てもらい、そうやって少しずつ滞在日数を増やして、若者の家を「自分の家」と認めてもらうことが大切なんです。
私たちの活動は、子どもたちが心に負った傷を癒やしていく取り組みだと言えるかもしれません。そのためには、子どもたちにたっぷり愛情を注いで絆を育んでいく必要がありますが、それって1日や2日でできることではありません。やはり、時間が大切です。
もう一つは、一人ひとりの子どもに合わせたきめ細やかな支援によって自立を目指すことです。一律のプログラムを提供するのではなく、子どもの気持ちを丁寧に汲み取り、ケースバイケースで的確なフォローができるようにしています。
1日のうち、1時間でも2時間でも笑顔で過ごせる時間を。
「友情のレポーター」の活動について教えてください。
友情のレポーターは、日本の青少年向けの教育プロジェクトという位置づけの活動です。毎年、11歳~16歳の子どもを2名公募で選抜し、レポーターとして海外へ派遣します。レポーターになった子は、現地の同世代の子どもたちを取材しながら彼らと交流して相互理解を深め、帰国したら取材内容をレポートにして伝える・広めることを使命にしています。
レポーターに選ばれた子は、出発前に現地のことやストリートチルドレンのことなどを熱心に調べます。ですから、頭では分かっているのですが、実際に現地の子と仲良くなって話を聞いてみると、「こんな状況でも頑張ってる子がいるんだ・・・」「自分にはとてもできない・・・」などと大きな衝撃を受けるんです。そんな体験を通して、「家族って何だろう?」「豊かさって何だろう?」「幸せって何だろう?」と自問することになります。
どの子も、行く前とは価値観がガラリと変わりますし、進路にも大きな影響を与えます。友情のレポーターを務めた子は、キャスターや新聞記者、フォトジャーナリストなど「伝える系」の仕事に進む子が多い傾向にあると思います。教員になった子もいましたね。
災害支援活動もされていると伺いました。
はい、スマトラ島沖地震やパキスタン地震などの際に、災害支援活動をおこなっています。ただ、私たちの支援活動はいわゆる復興支援とは違います。
災害時に必要になるものって、まずは生命の保証、つまり医療です。次に、避難所やテントなどの場所。そして、水や食料です。しかし、これらは私たちの専門外なので提供できません。国境なき子どもたちができるのは教育を提供することですが、災害直後の明日も見えないような状況のなかで、「子どもたちに教育を」と言っても誰も見向きもしないわけです。
被災地で私たちにできることは、子どもたちの居場所をつくることでした。大人は、家を復旧したり配給所に行って食料を調達したり生活を守るために必死で動きますが、そういうときに子どもがいると足手まといになりがちです。だから、子どもたちが集まって遊んだり勉強したりできるテント型の「チルドレンセンター」を立ち上げました。
チルドレンセンターは、子どもたちの心をケアする場所でもあります。大災害が起きると日常生活が破壊されてしまいますが、だからと言って、ずっと瓦礫のなかで過ごしていたら精神的にも大きな負担になります。1日のうち、1時間でも2時間でも笑顔で楽しい時間を過ごしてもらいたいという思いから、日常に近い場所としてチルドレンセンターを使ってもらいました。
一人ひとりの子どもたちのストーリーに目を向けてほしい。
国境なき子どもたちの活動のやりがいは、どんなところにありますか?
私も年に何度か現地を訪れていますが、日本にいるときも支援した子どもたちの状況が気になっています。ですから、現地のスタッフが随時ニュースを送ってくれます。「◯◯ちゃんは今英語の勉強をしてる」「◯◯くんは大学に入った」「◯◯ちゃんは家族を持って子どもを生んだ」など、もちろん良い知らせばかりではありませんが、一人ひとりの子どもたちの今を知り、彼らの歩みや成長を感じられるのは私のやりがいであり喜びです。現地に行ったとき、大きくなった子どもたちと再会するのも楽しいですよね。
自立支援活動をしている私のほうが子どもたちに教わることばかりで、一つひとつのプロジェクトに心を打たれています。それは、発足当初から変わらないことですね。
最後にメッセージをお願いします。
「知ってるようで知らないこと」って、たくさんあると思います。たとえば、「ストリートチルドレン」がそうかもしれません。「ああ、路上で暮らしてる子どもたちね」って、みんな知ってることのようですが、ストリートチルドレンという一言だけで理解できるものではないんです。
彼らにはそれぞれ名前があり、同じ路上で暮らしていても一人ひとり違います。性格も、置かれている状況も、悩んでいることも、みんなそれぞれ違います。ですから、「この子はどんな子なんだろう?」「毎日何をしてるんだろう?」「友だちはいるのかな?」というように、一人ひとりのストーリーに目を向けてもらいたいですね。
ストリートチルドレンの一言だと、「かわいそう」ってなりがちです。ですが、一人ひとりを知ると、「すごい」とか「かわいいな」とか「頑張れ」とか、また違った感情に変わってきます。そうなると、もっと気になってきて、もっと知りたくなってきます。そうやって関心を深めてもらえたら嬉しいなと思います。
国境なき子どもたちでも、一人ひとりの子どもたちにフォーカスした内容でニュースレターを発行したり、書籍を出版したりしていますので、ぜひ手にとってみてください。
また毎年、写真展を開催しています。子どもたちの表情や眼差しから、きっと感じるものがあるはずです。
>> 国境なき子どもたち写真展「Lost Childhood ― バングラデシュ、失われた子どもたちの時間 ―」
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