日本で暮らす外国人を「言葉」の面からサポートする。
地球学校の概要や、発足の経緯を教えてください。
<丸山さん>
地球学校は、簡単に言えば「外国人を日本語で支援している団体」です。日本で暮らす外国人の方は、日本語がわからないばかりに生活や仕事がうまくいかず、苦労している方がたくさんいます。そんな状況にある外国人を「言葉」の面からサポートしたいという思いでスタートしたのが地球学校です。
私と辻は、日本語教師養成講座の同期生でした。当時、日本語教師が教える場所は、授業料が高めで毎日通うような日本語学校か、無料のボランティア教室のいずれかという両極端な状況でした。その中間に位置する第三の選択肢になるような日本語学校があったらいいのに・・・と考えたのが、立ち上げのきっかけです。ビジネスパーソンが仕事の合間など可能な時間に手頃な料金で通えて、しかもレッスンの質が高い日本語学校、というイメージですね。
地球学校の事業について教えてください。
<丸山さん>
地球学校では、「日本語教室」と「地球っ子教室」という2つの教室を開催しています。
「日本語教室」は、日本語を学びたい人なら誰でもレッスンを受けられる有料の教室です。今の参加者は、ビジネスパーソンが中心ですね。出身国で言うと、インド、中国、アメリカの方が特に多く、IT技術者や英会話の先生などいろんな方がレッスンを受けています。JLPT(日本語能力試験)を受けることを目標に通っている方も少なくありません。国によって違いはありますが、JLPTで上級レベルを取得するほど、就職や賃金、進学などで有利になりますからね。
<辻さん>
「地球っ子教室」は、日本で暮らす外国人のお子さん向けに、無料で日本語学習を提供する教室です。主な対象は小・中学生ですが、母国で中学を卒業していて日本で高校受験を目指す子や、日本の小学校に入学する幼児の子は受け入れています。今年はコロナによる中止・中断がありましたが、基本的には毎週土曜日に、ここ(かながわ県民センター)で開催しています。
できるだけ日本語で、かつゲーム形式で遊びながら学ぶ。
地球っ子教室について詳しく教えてください。
<辻さん>
親の都合で日本に来ている外国人の子はたくさんいますが、みんな日本語がわからないことで、学校生活で様々な苦労を強いられています。教科書が読めなかったり、ニュアンスの違いから誤解されてしまったり、友だちができなかったり・・・。そんな外国人の子どもたちを、日本語学習を通じて支援しているのが地球っ子教室です。
現在はコロナ禍の三密を避けるため、小学校低学年と高学年以上で部屋を分け、先生とマンツーマンで日本語学習を進めています。先生は、ほとんどがボランティアの支援者さんです。以前は、子育てを終えた主婦の方や定年退職した男性が中心でしたが、最近は、高校生や大学生の支援者さんも増えています。
外国人の子どもに日本語を教える難しさは、どんなところにありますか?
<辻さん>
子どもって、言葉がそれほどわからなくても、一緒にいるだけで仲間ができたり遊んだりできるんです。でも、学校の授業となるとまったく話が変わってきます。
日本人の子は小さい頃から、お母さんに絵本の読み聞かせをしてもらったりしていますよね。だから、日本語のリズムに親しんでいて、言葉の意味合いもなんとなく理解していたりします。保育園に通うようになると言葉はもっと広がります。そのうえで小学校に入学するわけで、7年間の「積み重ね」があっての1年生の授業なんです。すでにベースができているので、教科書にもスムーズに入っていけます。
一方で、外国人の子はベースがありません。自分の母語で養われてきたものを一旦リセットして、急に日本語にスイッチするわけなので、授業のハードルはぐんと高くなります。日本の小学校1年生の教科書って、外国人の子からしたらものすごく難しいんですよ。
地球っ子教室では、どんな工夫をして日本語指導をしていますか?
<辻さん>
「媒介語(※)を使えばいい」とおっしゃる方もいますが、カタコトで話しても、コミュニケーションがちぐはぐになりがちです。だから、私たちは休憩時間を除いては「日本語だけ」で指導するようにしていて、媒介語を使うときにはネイティブの方に入ってもらうようにしています。
※ 主に学習者の母語のこと
あとは、「ゲーム」ですね。すごろくでも絵合わせでもカルタでも、なんでもいいのですが、とにかくゲーム形式で「遊びながら学ぶこと」を大切にしています。たとえば、漢字学習って外国の子にとってすごく大変なんです。日本の漢字は読み方がたくさんあるし、送り仮名や書き順もわかりにくいし、子どもたちはすぐに嫌になってしまいます。ですから、私たちは定期的に「漢字王決定戦」というゲーム形式で楽しく漢字を学べるイベントをおこなっています。漢字に興味を持ってもらうための取っ掛かりというか、きっかけづくりですよね。
いろいろオンラインになっても、「居場所」としての教室はこのまま残したい。
活動のやりがいや、続けてきて良かったことを教えてください。
<辻さん>
地球っ子教室がスタートして17年になりますが、子どもたちの成長を目の当たりにできるのがいちばんのやりがいですね。昔、通っていた子から連絡をもらったりすると、「立派にやってるんだな・・・」と思ってすごく嬉しくなります。赤の他人なのに、彼ら・彼女らの成長を見ていられるのは本当に幸せなことです。高校生のときに通っていた上海出身の子と、10年以上経ってから仕事でコラボレーションしたこともありました。
地球っ子教室には「卒業」という概念はなくて、本人が「もう通わなくても大丈夫」「自分の学校でやっていける」と自信がついたら、だんだん来なくなっていきます。でも、何か困ったことや嫌なことがあると、みんな戻ってくるんです(笑)。
これって「いつも同じ時間、同じ場所」で教室を開いているからなんですよね。連絡をとっていなくても、「土曜日の1時過ぎに7階にいけば誰かいる」ってみんなわかってますから。今回のコロナ禍で特に、「場を開けていること」の大切さを実感しましたね。
今後の展望を教えてください。
<辻さん>
コロナの影響で教室は中断を余儀なくされ、9月から再開しましたが子どもの数は激減しました。以前は、来た子はみんな受け入れていましたが、今は人数を絞るために予約制にしています。
地球っ子教室は、「学習支援」「日本語支援」「居場所」という3つの機能があります。このうち、学習支援や日本語支援はオンラインでもやっていけるかもしれません。でも、子どもたちが気軽に立ち寄ってホッとできたり、嫌なことがあったら吐き出したり、そういう「居場所」としての機能はオンラインでは考えにくいので、この先も同じ形で残していきたいですね。
<丸山さん>
外国人の子が地球っ子教室に来て、「別の学校に通っている同じ国の子」と出会うのも大事なことだと思っています。子ども同士だから母語でケンカしたりして、私たちもよくケンカの間に入ったりもしますが(笑)、そういうコミュニケーションってすごく大切なんです。学校だと外国人としてマイノリティかもしれないけど、ここに来れば同じ境遇の子がいて、母語で自由にしゃべったり、大きな声でゲームをしたりできます。そういう居場所って、他にはあまりないのかなと思います。
「日本語以外はNG」の日本語教室もあり、私たちも発足当初はそう考えていましたが、今は子どもたちの心の成長のほうが大事だと考えているので、休み時間などは自由に母語で話してもらっています。
あと、地球っ子教室は、お兄さんとかお姉さんとか「周りの子の背中を見て育つ場所」でもあります。これって、オンラインでは代えがたいですよね。今後は、可能な範囲でオンライン化の準備も進めていますが、「居場所」だけは残しておきたいなと思っています。
大人の方にこそ「みんな違って、みんないい」ことを知ってほしい。
外国人の子どもたちへメッセージをお願いします。
<辻さん>
「いろんな子がいるんだよ」ということを知ってほしいです。日本人はみんな同じじゃないし、日本に住んでいても違う言葉を使っている人や、違う習慣、違う文化の人はたくさんいます。だけど、みんな一緒に遊べるし、みんな一緒に勉強できる。そういうことを体感してほしいと思います。
<丸山さん>
私たちは、「みんな違って、みんないい」というコンセプトを掲げています。子どもたちはもちろん、支援者さんも老若男女、今までやってきたことも全然違う人が集まっています。そんな「いろんな人がいる環境」で、いろんな違いに触れながら育ってほしいですね。
日本人は昔から「みんなで一斉に」とか「右にならえ」といった意識が強く、そういう価値観の刷り込みもあったと思います。それだけに、大人の方にこそ「みんな違って、みんないい」ことを知ってほしいですね。大人が変われば、きっと社会も変わるはずですから。
支援に興味を持ってくれた方へのメッセージをお願いします。
<辻さん>
子どもたちに日本語を教えるのに、日本語教師の免許とか教師としての実績とか、そういうのは必要ありません。みなさんそれぞれ違う人生で、違ったものを身に付けていらっしゃいます。ですから、もし「地球っ子教室を支援したい」と思ってくださったら、みなさんの持っているものを活かせる形で参加していただければ嬉しいです。
外国人に日本語を教えるスキルなどは研修をしますし、支援者さん同士の学習会もあるので、後付けで学んでいただければいいんです。それよりも、地球っ子教室のコンセプトに共感していただける方と一緒に活動していきたいですね。
<丸山さん>
私たちは、支援者さんに「近所のお兄ちゃん・お姉ちゃん、親戚のおじさん・おばさんみたいな気持ちで関わってください」とお願いしています。「私なんてなにもできません」と謙遜する方がいますが、全然そのままで大丈夫。自分らしく対応していただけるのが、いちばんありがたいんです。子どもたちが「いろんな大人がいるんだな」って思えたら、それだけですごく価値のあることですから。
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