ゴミ拾いをした人間は、ポイ捨ての重大さがわかるようになる
こんにちは横尾さん、竹下さん。「グリーンバード」はどういう団体でしょうか?
<横尾さん> こんにちはサニエル!私たちグリーンバードは街にポイ捨てされたごみを拾うNPO団体で、表参道のイルミネーションがはじまった2002 年に設立されました。毎晩たくさんの人が表参道にきた結果、あまりにごみが多くなり、清掃業者さんだけでは対応することができなくなりました。そこで商店街の自治会メンバーもごみ拾いを手伝うようになったのですが、10 人で1 時間歩いたら45 リットルのごみ袋が20 ~ 30 袋にもなる。しかもそれが毎日。必死に拾っても翌日にはまた同じ量のごみがあるんですから、まさに“いたちごっこ” で、これではらちが明かない。そこで「捨てる側の意識を変えなければ、ごみのポイ捨て問題は解決しない」と、発想を変えることにしました。このようにグリーンバードのごみ拾いは「ポイ捨てそのものを減らす」ことを第一にはじまったのです。
私たちには「一度ゴミ拾いをした人間は、ポイ捨てをしてしまうことの重大さがわかるようになって、二度とポイ捨てをしない」という持論があります。だから多くの人に、一度でもいいからゴミ拾いを経験してもらいたいのです。でも、「ゴミ拾いのボランティア」って、なんだかとっつきにくい感じがしますよね。そこで思わず参加したくなるような“楽しくてカッコいいごみ拾い” を目指していました。
意外性のあるチームが日本全国に広がっていく
<横尾さん> 例えば、いかにもポイ捨てをしそうでちょっとワルそうなお兄さんたちが街でごみ拾いをしていたとします。そして、それを道行く人が見ていたとします。これってどう思いますか?見ている人はイメージとのギャップにビックリするのではないでしょうか。そしてごみを拾うお兄さんたちや、ごみを拾う活動そのものに、好意や関心を寄せてくれるのではないでしょうか。私たちにとっては、ごみ拾いしている人も見ている人も「なんかごみ拾いって楽しい(楽しそう)」って思ってもらえることが大切なんです。それは私たちの活動にはどうしても人手が必要だからです。そのためには多くの人にグリーンバードを知ってもらい、活動に参加してもらえる努力をしなければなりません。そこで私たちは、ごみ拾いとPR を兼ねたこのようなチームを日本全国で組織化しました。例えば、歌舞伎町ではホストや、LGBT の人たちがチームを立ち上げています。彼らがゴミを拾っていると目を惹いて、同じ夜のお仕事の人から商店街のおじさんまで、いろいろな人に関心を持ってもらえたり、参加の輪がひろがっていくんです。誤解がないようにいっておきますが、チームはPR のためだけに奇をてらってつくられているわけではありません。あくまで、チーム一人ひとりの「本当に街をきれいにしたい」という想いがベースになってつくられています。
<横尾さん> そしてさらに、ロゴマークをつくったり、グリーンの専用ビブスをつくったり、手ぶらで気軽に参加できるシステムをつくったりと、若い人が参加したくなるように努めています。このビブスは、たまたま通りかかったナイキの方がJ リーグチームの練習着につくったものの余りを提供してくれたことがはじまりなんですよ。「そのビブスが着たいから」と参加してくれる人もいるほどで、すっかりうちのシンボルになっています( 笑)「楽しそう」「なんかカッコいい」「出会いがほしい」、動機は何でもいいんです。最初の一歩が踏み出しやすくなることを一番に考えました。あとはごみ拾いをしている人がすごく目立てば、道行く人はポイ捨てをしにくくなりますよね。ビブスはそういう効果もねらっています。
9.11 のテロを境に、自分には何ができるのだろうと悩む日々
こういうアイデアが出る横尾さんの源ってなんですか?
<横尾さん> グリーンバードの設立者は現渋谷区長の長谷部 健さんで、骨子はその者が考えたのですが、現在のスタイルに至ったのは、私自身の経験も影響しているんですね。私は学生の頃、金髪でその辺をフラフラして遊んでるような若者で、特に目的もなくアメリカに留学していたんです。そして2001年、9.11のテロに遭遇し、さらには知人を亡くしました。このとき自分には何も成す術がなく、とても無力な人間だということに気づいてショックを受けたんです。
「人を助けたいと思っても俺は何もできない、どうしよう」って。そこから自分には何ができるだろうと大学院でイスラム教を学んだり、NPO 団体に参加したり、社会のためにできることを模索していましたが、そのようなかにあって、いつも“しっくりこない” あることを抱えていました。確かにNPO など、多くの団体では素晴らしい活動をされているのですが、真面目すぎて効果的にたくさんの人に知ってもらう術に欠けているように思えました。もっとわかりやすく魅力的にPR すれば、人もお金も集まって10 万人、100 万人もの人たちを救えるかもしれない。でもうまく発信できていないためにその可能性が損なわれてしまっている。もったいない状態でした。そこで昔の私のような、何かを探し求めている若い人にこそ知ってもらわないと、この状況は変えられないことに気づいたんです。少なくとも昔の私はまったく知りませんでしたから。ある調査によると、ボランティア活動などに「(参加していないけど)興味はある」という人たちの割合は6 割に上るそうです。
このような人たちへ積極的にPR すること、そして実際に参加していただき活動のすそ野を広げること、これが私たちの活動のベースになっています。
とにかく柔軟に。ワイワイ楽しそうなごみ拾い
実際のゴミ拾いはどのような雰囲気なのですか?
<竹下さん> ゴミ拾いに事前申し込みなどは必要なく、道具もすべてお貸ししているので、思い立ったときに手ぶらで参加できます。飛び入りで途中参加も途中離脱もオッケー、雨が降ったら中止!と、とにかく柔軟に活動しています。横尾がいうように、一人でも多くの人に「楽しい」と思ってもらえるよう、おしゃべりをしながらのごみ拾いが中心です。私も最初はびっくりしました。ゴミは拾いますが、ずーっとみんなでおしゃべりしてるんですよ( 笑) 特にはじめての人や、一人で参加された人にも「参加して楽しかった、よかった」って思ってもらえるように、私もたくさんお話するようにしています。「ゴミ拾いのボランティア」と思って参加するとあまりの違いに驚かれるかもしれませんね。でもそれもひとつのねらいで、とかく下を向きがちなゴミ拾いですが、みんなでワイワイ楽しそうにしているポジティブな姿は、参加者だけではなく道行く人にもいいイメージを持ってもらえると思います。
たくさんの人、企業、街とどんどん関わってポイ捨てのない世の中を目指す
企業からの支援も多いのですか?
<横尾さん> そうですね、先ほどお話しした「人とお金が集まればたくさんの人が救える」を実践しています。日本たばこ産業(JT)さんは、街の灰皿をきれいにしたことが発端だし、日本コカ・コーラさんは、飲料の缶を拾っていたことがきっかけになり、グリーンバードのロゴ缶をつくっていただき、チャリティーコラボをさせていただきました。他にもJeep さんやGAP さんとのコラボ、大阪マラソンの沿道をきれいにするチャリティー活動なども行っています。社会とつながりを持ちたい企業さんと、企業さんの力を借りて広く活動したい私たちの想いがマッチして、おかげさまでたくさんの新しい取り組みができるようになってきました。「若い人に積極的に参加してもらう」という私たちの活動が、メディアなどを通じて知られるようになって、全国規模で活動できるまでに至ったんだと考えています。
街と若者が未来をつくっていく。そんな絆を深める拠点になりたい。
これからの展望をおしえてください。
<横尾さん> 設立して14 年。現在では、国内で70 以上、海外で10 を超えるチームが活動しています。そして、ごみ拾いを続けることで街とのつながりができて、街づくりにかかわることが増えてきました。例えば、地域のお祭りに参加したり、畑を耕したり、放置自転車の対策活動をしたり。このような活動を通して、街と若者が街の未来をつくっていく。これからはそんな絆を深める拠点になっていきたいですね。ごみ拾いはそのスタートであり、すべての活動の土台です。ごみを拾うことで街を知り、街をもっと好きになってもらいたいです。もちろん2020 年の東京オリンピックでも、東京の街に根づいたボランティアとして関わっていきたいです。
もうひとつは海外。現在は海外にもチームが増えているので、こちらにも力をいれていきたいです。日本でごみ拾いに参加した外国の人が母国で「日本のごみ拾い文化」を広げてくれたらうれしいですね。これもひとつのクールジャパンだなと感じています。
そうしてたくさんの人たちと関わって、最終的にはグリーンバードがない世の中になればいいですね。それってポイ捨てのない世の中のことですから( 笑) 早くその日を迎えられるよう、私たちはがんばります。だからみなさん、特に若い人たちには、目の前のひとつのゴミを拾うことや新しいコミュニティと触れ合うその小さなアクションが、社会、ひいては世界の未来につながっていることを知ってほしいのです。グリーンバードの活動に一緒に参加してくれたらとても嬉しいですし、それ以外でも自分のできる範囲でちょっとだけ、何かをはじめてみませんか?