たくさんの子どもたちに、主体性を持ってもらいたい。 そして、地域を愛してもらいたい。

岡さん、サニエル、ナルさんの3ショット

認定NPO法人底上げとは

理事長の矢部寛明さんを中心に、東日本大震災後の2012年5月に宮城県気仙沼市に創設された認定NPO法人。 東北の高校生が“自分のやりたいこと”や“地元のためにできること”を考え、行動するためのサポートをしている。主体性や自ら学ぶ力、課題解決力を身に着け、同時に地域に根差した活動を通して郷土愛を育むことで、新しい社会やワクワクする地元をつくることができる人材を育成している。今回はぼくサニエルが、理事の成宮さんとインターンの岡さんにお話を伺ってきました。

左:岡さん、右:ナルさん

いまの底上げのスタイルは、ある高校生の“想い”がきっかけ

理事の成宮さん。通称ナルさんの写真

理事の成宮さん。通称ナルさん

-底上げの立ち上げ経緯をおしえてください-

<成宮さん>
東京に住んでいた私は、東日本大震災発生後にボランティアとして気仙沼にやってきました。
当初は、テント生活をしながらボランティアの一員として、泥出しやがれきの撤去をはじめとした“ハード面”の活動を中心に行っていました。

しかし活動を続けながら、気仙沼で時間を過ごしていくうちに、ハード面ばかりではなく“ソフト面”にも目を向けた支援活動が必要ではないかと考えるようになりました。
そのためには、この地にしっかりと根差し、継続的に地域のニーズを探りながら、それにともなった活動をしていかなければなりません。そこで理事長の矢部や、ボランティアで知り合った仲間たちとNPO法人を立ち上げることになりました。それが2012年5月、底上げのスタートとなります。

とはいうものの、最初は何をすべきかを模索する毎日でした。そんなある日、他のNPO団体から「現地の学習支援をしませんか?」というお話をいただきました。
震災後は、学校の校庭や公園などに多くの仮設住宅が建てられましたが、それは同時に、子どもたちから“学びや遊びの場”を奪うことにもなりました。これが地域では大きな課題のひとつになっていたのです。

そこで私たちをはじめ、ボランティアの学生なども加わって、地域の子どもたちが一緒になって勉強したり、遊んだりする場所をつくっていきました。そしてある日「町のために何かしたい」という高校生があらわます。「外からたくさんの支援者がきているのに、地元民である自分が何もできてなくて歯がゆい」、「大人たちだけではなく、自分も何かの役に立ちたい」、その高校生はそんな想いを話してくれました。

そして、この高校生の想いをきっかけに「町のために何ができるのか、そして自分自身は何がしたいのか」、を高校生自身が考える場所や機会をつくっていこうということになりました。
いまの底上げのプログラムや体制の原点はここにあります。

そして徐々に人が集まり、いまでは、みんなで考え、話しあった結果を高校生自身がプロジェクトとして立ち上げ、具体的な活動を行うまでになりました。

高校生の主体性を邪魔しないようにサポートしていく

高校生が企画した「気仙沼恋人スポット」のパンフレット

高校生が企画した「気仙沼恋人スポット」

-どのようなプロジェクトがあるのですか?-

実は明治以降の短歌で、はじめて「恋人」という現代語訳が生まれたのは気仙沼だっていうことをご存知でしたか?これって地元の人でもあまり知らないことなので、ご存知ないのも当然だと思います。
でも高校生たちはそこに目をつけました。この“地元文化”を眠らせておくのはもったいないと、自分たちでオリジナルのラブストーリーをつくり、恋人向けの観光スポットを考え出し、さらには「気仙沼恋人スポット」という観光パンフレットまで制作したのです。
もちろん取材や撮影は高校生が主体的に行っています。

高校生たちにはモノづくりが大切なのではなく、あくまで自分たちで考えて行動することが大切だと伝えています。簡単にいうと、底上げは主体性を育む教育団体みたいなもので、私たちの活動は、彼らの主体性を邪魔しないようにサポートすることなのです。

底上げを旅立った人たちが、また地元に戻ってくる

OBOGが高校生をサポートする様子

OBOGが高校生をサポート

-現在、何名くらいの高校生がいらっしゃるのですか?-

現在、市内の高校に通う15名ほどの高校生が、様々なプロジェクトに取り組んでいます。
はじめにきっかけをつくってくれた高校生は、いまでは大学3年生で、OBやOGも40名近くいます。長期休みを利用して帰省したOBたちが高校生のサポートをしてくれたり、底上げのインターンとして参加してくれたり、底上げを旅立っていった人たちの循環が少しずつ生まれてきています。とても嬉しいことですね。

震災から7年が経ちましたが、まだまだ町は落ち着いていません。高校生のなかには、いまだに仮設住宅に住んでいる子もいます。土だらけで町に色がないと話す子もいます。それぞれが、それぞれの課題を抱えているなかにあっても、みんな「町のために“何か”をしたい」という想いを持って集まっています。
その何かを主体的に見つけられるよう、お手伝いするのも私たちの使命だと考えています。

地域の大人と高校生の距離を縮める「底上げDrinks」

大人と高校生の交流の場「底上げDrinks」の様子

大人と高校生の交流の場「底上げDrinks」

-「底上げDrinks(ドリンクス)」とは、どんな活動ですか?-

高校生にとって大人と触れ合うのは刺激的で、近い距離感で話しをすると、いろいろな気づきが生まれたりするものですが、高校を卒業して進学する人は、たいてい市外に出ていくので、高校生と大人をつなぐ世代が町にはほとんどいません。

そこで大人と高校生の距離を縮めるため、月に1回ほど、大人と高校生がプチパーティー的な感じで集まる「底上げDrinks」という活動を行っています。自分のまわりにはこんな仕事をしている大人がいる、こんな想いを持った大人がいる…、このようなことを肌で感じてもらうことで、幅広くものを考える力、それを受け入れる力、そういう多様性を学んでもらいたいと考えています。

また逆に高校生が何をしているのかを知りたい、という大人もたくさんいらっしゃいます。交流するとお互いに理解や信頼が生まれて、逆に大人たちも“よし、やろう!”という気持ちになります。これからもこのような場をどんどん広げていきたいです。

きらきらしている大人が身近にいて、素直な理想づくりを応援してくれる

インターンの岡さん(2017年4月当時)の写真

インターンの岡さん(2017年4月当時)

-岡さんは2016年9月から大学を休学して、インターンとして底上げに参加されていますが、参加されたきっかけは何だったのですか?-

<岡さん>
理事長の矢部さんに出会ったのがきっかけです。
私は高校3年生の春、アメリカ大使館などが主導する「TOMODACHI(ともだち)プログラム」に参加しました。これはリーダーシップや地域貢献について考えることを目的とした短期留学プログラムで、そのなかのひとつに、自分たちの震災と世界の災害について調べ、高校生に何ができるのかを考える「ビヨンド・トゥモロー」というプログラムがありました。そのときにゲスト講演者として招かれていたのが矢部さんでした。

そこで矢部さんは、私たちが考えたアイデアや、やってみたいこと、将来の夢などを熱心に聴いてくれました。そして何ひとつ否定しませんでした。否定どころか「岡ちゃんならできるよ」と積極的に後押ししてくれたり、“これでいいんだ”という肯定感を与えてくれました。

それまで私のまわりの大人は否定からはいる人が多く、特に学校の先生に否定されると、ずんと暗い気持ちになっていました。ただ、できる方法をいっしょに考えて欲しかっただけなのに。
だから私にとって、矢部さんとの出会いはものすごいカルチャーショックだったんです。矢部さんとの出会いで自信がついたし、子どもの周りに応援する大人がいるというのは、こんなにもうれしいことなんだということが分かりました。

私は、高校卒業後に留学を希望していたので、留学を終えてからインターンをしたいと矢部さんにお願いすると、「それならぜひ、インターンをする前に新しいプログラム“SOKOAGE CAMP”に参加しないか?」と誘われました。
SOKOAGE CAMPは大学生が1週間、気仙沼にきて自分の将来について考える合宿プログラムです。そこで私は、運営側ではなく参加者として参加しました。

1週間、底上げのスタッフの皆さんと同じ時間を過ごし、いろんな話をし、いろんなことを考えていくなかで、将来の選択に対するマインドが変わってきている自分に気が付きました。ここには、きらきらしている大人が身近にいて、自分の素直な理想づくりを応援してくれる。とても幸せだと思いました。そしてそれと同時に気仙沼の人も土地も好きになりました。
心が決まった私は、あらためて留学後にインターンをしたいと申し出ました。いまは、私が感じた幸せな経験をみんなにも味わってもらいたく、高校生サポートや夏のSOKOAGE CAMPに向けてがんばっています。

気仙沼での活動を通して、震災と向き合えるようになった

<岡さん>
私は、福島県いわき市の出身なのですが、正直、気仙沼にくるまで震災や地域の町づくりに目を背けていた気がします。それは、震災をどこまで自分事にしていいかわらなかったからです。

海も遠いし、津波にあったわけでもない。不便はあったけど、家族を亡くしたわけでもない。苦しいこともたくさんありましたが、あの人の方がもっと大変だから被害者意識を持っちゃいけないと、自分にいいきかせていました。
なので、震災の話がでると「自分が被災者のように語っていいのか?」という自問がいつもあって、自然と震災の話をさけるようになりました。

でも、ひどい震災にあった気仙沼で、町の魅力を本気で語る仲間に出会って、人の温かさを感じて、いままで避けていた震災や町づくりのことに向き合えるようになってきました。
そして仲間たちと過ごすうちにいつしか「私は東北が好きなんだ、東北に育てられたんだ」と心から思えるようになりました。
これからは、町づくりそのものというよりも、性格的には町づくりをしている人を応援していきたいと考えています。

できなくても、やろうと挑んだ経験が財産

サニエル、ナルさん、岡さん、インタビュー風景

サニエル、ナルさん、岡さん、インタビュー風景

<成宮さん>
年に1回、底上げの活動を応援してくださる方への報告会を東京で行っています。そこには高校生も連れていきます。私たちの活動をこんなに応援してくれている人がいるんだと思うと、さらにやる気もでてきて、テンションも上がりますよね。
私たちがサポートするプログラムで大切にしていることは「大人がゴールや目標を絶対につくらない」ということです。大切なのは主体性です。それを決めてどう歩んでいくのかは、あくまで高校生にゆだねています。
最終的にできても、できなくても、やろうと挑んだ経験が財産で、後々役に立てばいいと考えています。

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ご支援、その他のお問合わせはこちらで受付けております
ホームページ :http://sokoage.org/
電話番号 : 0226-25-9670
住所:〒988-0023 宮城県気仙沼市南が丘2-2-12
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